狐さんの花嫁探し


「ちょお待ちやお嬢ちゃん 君五条家の悟君のお気にな子やろ?」


ある日の休日。蘭と釘崎の2人は仲良く街中にショッピングをしに来ていた。
買うものを一通り買って食べ歩きをしながら当てもなくぶらぶらしていた所、突然(無駄に高価そうな)着物を着た見知らぬ関西弁の男が蘭の腕を掴んで来た事から二人は半強制的に足止めをくらった。


ピアスが沢山空いているし、なんだか胡散臭い笑顔を浮かべている。怖い人かと蘭が訝しげに眉を寄せた。


「ちょっと蘭 あんたアイツの他にもまだ犯罪者予備軍抱えてたの?」


「蘭、この人知らない…!あと、悟、犯罪者予備軍?違う」


「クククッ!やーあの悟君がお嬢ちゃん達くらいの子らには犯罪者予備軍呼ばれとるんや おもろいわ。まぁ悟君が未成年にゾッコンだって噂は君達の反応見れば本当らしいしな。そう呼ばれてもしゃあないわ」


「ゴチャゴチャうるさい狐野郎ね 今この子の腕掴んで引き留めてるアンタも十分犯罪者予備軍なんだよ 分かったらさっさとその汚い手を放しなオッサン」


ペッと地面に唾を吐き捨てる勢いでそう言った釘崎に禪院直哉のこめかみがピクッと動いた。


「自分口には気ィつけや 俺は生意気で身の程知らずな女が吐くほど嫌いやねん 女は女らしく男の三歩後ろ歩くぐらいがちょうどええんや。分かったらこの子置いて自分みたいな性格も顔もブッサイクな女はさっさと家帰れや」


「は?誰が三歩後ろなんか歩くかよ ていうかこちとらオメーみてぇな犯罪者予備軍に指図される覚えねぇんだわ 分かったら大人しくお家帰ってママのおっぱい飲んでねんねしてな狐野郎」


言いながら釘崎が親指をグッと下に向けた。

バチバチと火花を飛ばし合う2人を交互に見ながら蘭が間であわあわと慌て出す。
釘崎がそんな蘭を見て一瞬気を緩めた瞬間、目の前から2人の姿が消えた。"2人"とは蘭とさっきの胡散臭い狐顔の事。


数秒も経っていないというのに見失った。
釘崎はチッと大きく舌打ちをし、ポケットからスマホを取り出すとある人物に電話を掛け走り出した――



―――――――――――――――――――――


「さて これでやっと2人きりになれたなぁ蘭ちゃん」


「!名前、どうして…」


「ん?ああ、そりゃ自分あの悟君が首ったけな女の子やもん かなりの有名人やで?――ま、それがなくとも有名やけど」


最後の方はボソッとしか聞こえず蘭が首を傾げたが直哉は笑みを浮かべるとうんうんと頷きながら蘭の頭を撫でた。


「こうして見ると君やっぱ悟君が惚れるだけあるわ。俺いいとこのお坊ちゃんやからべっぴんさんは腐るほど見てきたつもりやけど、まぁ君はレベチやな さっきのクソ生意気な女より全然かわええわ 比べるのも可哀想なぐらいや」


「野薔薇悪く言う、ダメ!野薔薇可愛い。狐、謝る」


「誰が狐や。直哉や、直哉。ほら言うてみぃ お嬢ちゃんは特別に直哉さんでもええで。本来なら直哉様呼ばすとこやけどな」


「直哉、今すぐ戻って野薔薇に謝る じゃないと蘭怒る」


「ちょお待ちや誰が呼び捨てで呼べ言うたねん そもそも君が怒った所で何ができるん?どう頑張っても力では男に敵わない女のクセに態度だけは一丁前やんな」


手首を強く握られドサッとベッドに押し倒された蘭は自分を上から見下ろす直哉をキッと睨みつけた。


「ハハッ!君この状況でまだそんな顔できるん?肝っ玉座っとるなぁ 流石悟君の女や ――なぁ自分、いつもどんな風に悟君に抱かれとるん?悟君いつも目隠ししとるし、目隠しプレイとか好きそうやん」


ニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言った禪院直哉という男は何を勘違いしているのか蘭と五条の間に体の関係があると思っているらしい。

しかしそんな事があるはずもなく。現時点では完全に五条の一方通行であるし、そもそもそんな関係になるのを幼馴染みである伏黒恵が黙って見過ごすはずがない。


と、一先ずその話はさておき、現実に視点を移す。状況をよく分かっていない蘭は頭の上で一つにまとめられた腕と、どこか薄暗い部屋の雰囲気に眉を寄せた。


蘭は知らないが2人がいるこの場所はあるラブホテルの一室だった。静かで誰にも邪魔されない所で五条の"噂のお姫様"と話がしたかったという理由でここに蘭を連れてきた男・禪院直哉はこれが立派な犯罪だと分かっているのかいないのか、ニコニコと笑顔で彼女を見下ろしている。


「直哉、蘭の腕放す。動けないし、顔近い」


「せやから"さん"をつけろアホ!ハァ…まぁええわ。なんや俺君のこと気に入っちゃったみたいやし?特別にお嫁さんにしたるわ!な?嬉しいやろ 泣いて喜んでもええんやで?夜の方もまぁ悟君のお下がりってとこが癪やけどこれから時間かけて俺の形に変えていけばええ話やしな」


1人勝手に話を進めて行く直哉について行けず、蘭はよく分からないがここは首を振っておこうと、ブンブンと首を横に振った。


「蘭、直哉のお嫁さん違う。嬉しくて泣くも、ない。それより早く腕放す」


「はぁ〜アカン、アカンわ蘭ちゃん。この状況でまだ旦那さんになる俺に口答えするんは"犯して下さい"て煽ってるとしか思えへんで?そのべっぴんさんな顔ぐしゃぐしゃに泣かすんも興奮するしな。あ、せやもしかして自分無理矢理ヤられるのとか好きなん?」


「?直哉、言ってる意味わからない。あと旦那さん、違う」


「ホラ だからそういうとこやねん。まぁ、分からないならええわ 今その体によぉ分からせたる」


目の前にあったはずの直哉の顔が見えなくなり、代わりに首筋にぬるっとした感触がした。
その瞬間、蘭の体がビクッと大きく動いた。
直哉の動きを止めようともがく蘭だったが両腕を頭の上で纏められている為、僅かに足を動かすしかできない。


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