あー・・・やっちゃった。
いつかやるんじゃないかと思ってたけど遂にやっちゃった。お酒って怖いわ。理性を溶かして善悪の境をあやふやにして自分の欲望のままに行動させる。後先のことなんて全く考えずに"その時したい"と思ったことをすぐ実行させる。お酒の力を借りて女性を口説く男の人はある意味賢いのかもね。いや、女性としては最高に嫌だけど。素面で挑んで来いや。あ、私人のこと言えないんだった。

見慣れないホテルの一室。
ベッドの上。
散らばった二人分の服。
裸の男女。

すごいね、ドラマみたい。ちなみに更に付け加えると、

此方に背を向け、横になったまま両手で顔を覆って啜り泣くグリーン。
上体を起こして眠気覚ましの電子パイポを吸っている私。

うん。ドラマとか漫画で見る正しいポジションは完全に男女逆だな。意外に冴えた頭でそんなことを考えながら、フー、とミント味の煙を吐き出す。


「うっ、・・・ぅう、っく・・・」

「グリーンごめん。ホントにごめんて」

「っく、も、オレ・・・婿に、行けない・・・っ」

「婿入りするつもりだったの?」

「っせー・・・!ものの、例えだ・・・っ」


しゃくりあげながらも懸命に噛み付く意思を見せるグリーン。

あぁ、もう。
そういうところが可愛くて仕方ないんだってば。

私はベッドスタンドに電子パイポを置く。静かな室内にはカタンという音がよく響く。


「グリーン。こんな状況でいうのは卑怯だってわかってるんだけどね」


グリーンは相変わらず此方に背を向け小刻みに身体を震わせている。背中に散らばっている花弁のような赤い痕は、昨夜間違いなく私が付けたものだ。


「私、ずっとずっとグリーンのこと・・・

可愛いと思ってて」

「ハァ?!」


そこでバッと此方に向き直ったグリーン。あ、想像以上に目、赤い。可愛い。よく見たら首にも胸にも二の腕にも痕が。どんだけ付けたの私。


「そっ、そこは好きだったとか言うんじゃねーのかよ!」

「もちろん好きだったよ?昔から」

「なっ・・・!」


途端に赤くなり慌てふためくグリーン。お望みの回答をしたのにその反応はどういうことなんだ、忙しないなぁ。


「嫌味を言う為に隠れて待ってたり自分がちょっと先に進んでるとドヤ顔してみたりあんまり相手にされないとしょげたり・・・構われる為に労力を惜しまないグリーンがもーーー最っ高に可愛くて大好きだった。けど1番可愛いくてゾクゾクするのは」


グリーンの頬に手を当てて指で赤い目元を辿る。その照れて赤くなる表情ももちろん好きなんだけど。

思い出す。いつかのポケモンリーグ。


・・・バカな!
本当に終わったのか・・・?全力をかけたのに、負けた・・・!?
せっかく・・・ポケモンリーグの頂点に立ったのによぉ・・・!



膝をついてボロボロと涙を流す、あの


「泣き顔」


グリーンの動きが止まった。

ーーーあの時胸が高鳴ったのは、チャンピオンになった事に対する高揚からくるものなんだって、ずっと勘違いしてた。けど違った。あの胸の高鳴りはその後も度々経験できた。

グリーンの泣き顔を見る度に。

チャンピオンになった時にグリーンが泣いたから、グリーンの泣き顔を見る度にチャンピオンになった時を思い出しての条件反射なのか。正直その辺はどうでもいい。揺るがない真実があるとすれば、ただ一つ。


「私、グリーンの泣いた顔、大好き」


グリーンの顔が引き攣る。


「笑った顔も照れた顔も好きだけど、こんなにときめくのは泣き顔だけなの。だからね、一緒にいる時はいけないことだってわかってたけど、ずっと泣かせてみたかった。その願望が昨日、お酒で溢れちゃったみたい。けどごめんね。私今、すごく幸せ。

泣いてる可愛いグリーンが、たくさん見れたから」


だから全然後悔してない、と言うと唯でさえ泣き腫らしたと思われる目に薄く水分が張る。ちょっとそれ、私の大好きな顔って言ったじゃん。サービスなの?


「可愛い。大好きグリーン」


身体を傾けてその唇を塞ぐ。すると裸の肩にグリーンの手が置かれ、すぐに押し離された。


「や、やめろよ・・・っ」


上擦った声で拒否するのに、そこまで力が篭ってない。肩に触れるその手を掴み、そのままグリーンの顔の横に押し付けた。上体だけ、私が覆い被さる。見下ろすグリーンは、目も赤いけど顔も赤い、散らしたキスマークも赤い。もっとたくさんつけて、全部赤くしたい。ゴクリと喉が鳴った。


「本気でやめてほしかったら、昨日だって今だって私のこと殴るなり突き飛ばすなりできるでしょ?男なんだから」

「・・・っ!」

「それをしないってことは、それが答えでいいんでしょ?ほら、ねぇ」


片手を解いてシーツ下のグリーンの大事な部分に優しく触れる。ビクリと反応したそこは固く逸れている。間違いなくこの状態に興奮している証拠で。


「ねぇ・・・気持ちいいでしょ?私にいいようにされて、少なくとも悦んでたところはあるでしょ?」

「ち、がう・・・!」

「利害の一致ってことで、このまま流されよう?グリーン」

「ぃ・・・や、だ・・・っ」


屈辱、恥辱、抵抗、悦び、快感、理性、本能。色んな感情でぐちゃぐちゃになって惨めに涙を流すグリーンが、やっぱり誰より可愛くて、愛しくて。

嫌だやめては言葉ばっかり。肝心の身体はこの場をどうにかしようとしない。むしろ、歓迎してるでしょ?だからやっぱり好きにしちゃうね。

無防備な肩や首に可愛らしい音を伴う口付けを落とすと、もっと可愛らしく喘ぐ声が聞こえる。もう一度その唇を今度は飲み込むように奪った。見下ろしたグリーンの目尻から溢れる涙に、胸は高鳴るし下の涎も止まらないや。

断言できる。私の人生、こんなに愛せる人はいない。泣き顔ひとつで、ここまで私を熱くさせてくれる人なんて、グリーン以外現れたとしても、もう要らない。

可愛い可愛い、私のグリーン。


「グリーン、だあいすき」




愛しの泣き虫さん
愛しの泣き虫さん






ーーー数年後。
とある結婚式の参加者の言葉。


新郎の切り札ポケモンP氏:
「ピジョー・・・(正直昔からこうなるだろうなとは思っていました。なんだかんだで主人も一途でしたから)」

新郎の部下エリートトレーナーY氏:
「いや〜、新婦に新郎の手綱の握り方を指南していただきたいですね!これ以上ジムを抜け出さないように」

新郎の上司兼チャンピオンW氏:
「ハハ、新婦が新郎を横抱きにして歩くなんて面白い演出だったな。彼等らしいよ!」

新郎新婦の後輩トレーナーH氏:
「昔からお似合いだなぁとは思ってました!なんかこう、割れ鍋に綴じ蓋っていうか」

同じく新郎新婦の後輩トレーナーK氏:
「新郎は喜んで新婦の尻に敷かれると思います!昔からそういう節があったので!」





新郎新婦の幼馴染兼友人代表R氏:
「引菓子うめぇ(むしゃむしゃ)」