グリーンと同棲を始めてから半年。持ち前の構ってちゃんと好奇心が手伝って、私がヘアアイロンや爪磨きをしているとよくグリーンが寄ってくる。そしてちょっとやらせてみ、と言って私にヘアアイロンや爪磨きを施してくれるのだが、これがなかなか上手で。最近のグリーンは私のスタイリストと化している気がする。

このマニキュアだって同じ。


「コトネと買い物だっけ?」

「うん、新しい帽子が欲しいんだって」

「あの帽子があいつのトレードマークだろ・・・新しい帽子なんて被ったらコトネってわからなくなりそうだ」

「ふふ、確かに!」


ソファの上。話しながらも私の手を取り、爪にブルーピンクの半透明なマニキュアを塗ってくれる。はみ出しがなく、とても綺麗。


「グリーンってホント器用だよねぇ」

「おいおい、オレを誰だと思ってんだ?天下のグリーン様だぜ?」

「はいはい。グリーンが女の子だったらきっとオシャレさんだろうね」

「まぁ今でも充分オシャレだけどな!」

「自分で言わなければ完璧なんだけど・・・。ねぇ、グリーンは女の子になりたいと思ったことある?」

「ねーよ」

「どうして?オシャレの幅は広がるよ?」

「男は男で楽しいから良いんだよ」


2度塗りを一通り終えて私の爪をあらゆる角度から確かめるグリーン。ムラもなく、やっぱり私がするより綺麗だ。乾いたか確認で私の指を掌に乗せ、親指で触れるか触れないかギリギリの加減で爪をそっとなぞる。その仕草に毎回ドキドキする。乾いて無かったら跡が着くとか、そういうんじゃなくて。

取ったその手を、壊れ物のように扱う。その仕草がまるでーーー


「それに女じゃ、お前の王子様にはなれないからな。ほらよお姫様」


出来たぜ、と言ってそのまま口許に私の手を引いて手の甲にちゅ、と唇を落とす。余りにも私の思い描いた情景に重なるので、考えが読まれたのかと思った。そしてじわじわ湧き上がってくる気恥ずかしさ。か、カロス帰り男子怖い・・・!


「き、キザ・・・!」

「キザなことも似合っちまう自分が怖いわ」

「何言ってんの・・・!」

「お?顔赤いぜお姫様?」

「もっ もうやめてってば!」


手を振り払い、逃げるようにソファから降りて出掛け仕度を始めた私にグリーンがクツクツと笑う。


「少し早いけど、もう出るね」

「おー、いってらっしゃい」

まだ笑っているグリーンに悔しい気持ちが沸き起こり、何とか一泡吹かせたいと思う。なので、グリーンへもう一度近付き、ルージュ塗りたてツヤツヤの唇をグリーンの頬に押し当てた。わざと派手なリップ音を響かせて離れると、そこには頬にリップマークを残され呆気に取られた顔。やったね、大成功!


「いってきます、王子様!」



外は快晴。掌を空にかざすと、透き通るような水色の空に桜色の爪が映え、それだけで嬉しくなる。今日はきっと、何度も爪を見ては愛しの王子様を思い出すんだろう。

姫ってガラじゃないけど、貴方が王子様に名乗り出てくれるなら、私はいつだって、


世界でいちばんお姫さま!
世界でいちばんお姫さま!






コトネちゃんの帽子はというとーーー


「見てくださいこのリボンの赤!!普段愛用してる帽子のリボンが今までは柘榴色だったんですが今だけ限定色の茜色が出たって聞いて!!

子どもっぽいイメージを払拭させたい私にピッタリの赤ってコトネ!!どうですか似合いますか!?」

「ごめんコトネちゃん、今までの帽子と全く見分けがつかない・・・!」


アイデンティティーが失われることは無いようなので安心しました。