ウインディの甘えたような鳴き声で目が覚めた。ぼんやりする頭を持ち上げウインディの鳴き声の原因を探ると。

なんと立派なウインディがもう1匹いて、互いに額や頬を擦り合わせているではありませんか。あらあらラブラブ。ただ相手のウインディには見覚えがある。そのウインディの主人は恐らくーーー


「だ〜っから違うんだって!別にオレは寝込みを襲おうとかそういうつもりじゃなくて!こう、愛情表現っていうか・・・ホラ!あいつらだってやってるだろ!」


背後から突然聞こえてきた声に振り返る。そこには思った通り、ウインディの主人であるグリーン・・・と、何故か1匹のニンフィアが。


「お前が思ってるような邪なことは何も無いって!いい加減そんな目で見ないでくれよ・・・!」

「フィー!フィアッ!」

「はぁ・・・お前、姉ちゃんに似てきたな・・・」

「あの・・・何してるの?」

「!!!」


私の声に驚きながらこちらに顔を向ける両者。すると軽い足取りでニンフィアが駆け寄ってきた。


「フィア!」

「あ!キミはナナミさんのニンフィアちゃんか!」


久しぶりだね、と頭を撫で撫ですると嬉しそうにリボンのような触覚を手首に巻き付けてきた。戯れていてるとすぐ上から降ってくる声。


「散歩に出てみたらこんな所にお前のポケモンが大集合で驚いたぜ。ナマエも散歩か?」

「ううん、お花見だよ」

「はは!お花見ねぇ・・・誰一人として花を見てるやつはいないみたいだけどな!」

「いや、その・・・!ここまで寛げるのは桜あってこそだから!桜目的で来たんだし、間違ってはいないでしょ?」

「まぁ、そういうことにしといてやるよ」


場所を変え、桜の全貌が見える位置に並んで桜を見上げる。うん、ここまで立派な桜はあまり見かけない。


「綺麗だよね、ここの桜。一本だけでもすごい迫力」

「確かに花の密集度がすごいな。枝一本一本重そうだ」

「そうそう!よく小さい子が描く雲に木を生やしたような桜の絵にそっくりだよね!」


ニンフィアちゃんも桜好き?と私とグリーンの間で同じ様に桜を見上げる彼女に聞いてみると元気の良い、恐らく肯定の返事をくれた。ふふ、と口許が緩む。そしてまた桜を見上げて思うことはひとつ。


「春だね〜!」

「春だな」

「フィアー」


うん、どうやら同意していただけたらしい。その桜の下には相変わらずイチャイチャしてるウインディ達がいて。


「恋の季節だね〜」

「こ、恋!?」

「うん、ウインディ達が」

「あぁ・・・なんだ、ウインディかよ・・・」

「? 誰のことだと思ったの?」

「い いや誰でもない!」

「?」


あはははは、と笑って誤魔化すグリーンに疑問を覚えるけど、それより大きな思考を前にその疑問は流れていった。

そう、私達のウインディはちょうどオスとメスだし、育て屋さんに預けてみる気はないかって言ってみても良いかなぁ?何よりラブラブだし。これは前々から思っていたこと。でもグリーンのウインディはトキワジムでも大活躍だから、一時とは言え抜けられるのは困るんじゃ・・・い、いや私のウインディだって強いしいなくなったら困るけど!

でもやっぱりポケモンにだって、バトル以外にも幸せとか生き甲斐とか、人間と同じ様に見つけてほしいと思う。何より、私が彼らのそんな姿を見てみたいから。

うん、やっぱり今言おう!グリーンに!


「ねぇ グリーン!」

「うぉっ?! 何だよ急に勢いよくっ」

「前からずっと言おうと思ってたことがあるんだけど・・・聞いてくれる?」

「前からずっと・・・?!な、なんだよ」


身体ごとグリーンへ向くと、私のただならぬ緊張を察したのかグリーンも向き合ってくれた。


「あの・・・!」

「お おう・・・!」

「グリーンにとっては困る話かもしれないんだけどね、」

「っそんなの聞いてみないとわからないだろ!」


ごもっともです。あぁ!こんな時にグリーンの肩書きを気にしないといけないなんて思いもしなかった!これ、結構勇気がいる発言だ。何かグリーンもトレーナーとして納得する別の言い方とか考えた方が良いかな、と一度口を閉じる。少し俯いて考えてみたけど、本人達がとても仲良しだから。これ以上の説得材料なんて見当たらない。なぜかニンフィアちゃんがワクワクした表情でこっちを見上げてるのはどうしてかな。チラリと視線を移せば、幸せそうに寄り添う2匹のウインディ。よし、やっぱり当初の予定通りで!勢いよく顔を上げて再びグリーンと目を合わせる。


「あのね・・・!」


ゴクリと喉を鳴らし心なしか赤いグリーンの顔。暑いのかな。


「私のウインディとグリーンのウインディ、育て屋さんに預けてみませんか!」

「・・・・・・」



グリーンは暫く動きを止めたかと思うと、おもむろに頭を抱えそして叫んだ。


ウインディかよ!!!


本日2度目のその言葉の声量は周辺の野生鳥ポケモンを一斉に羽ばたかせ、原っぱにいる全てのポケモンの視線を集めた。




春、恋の季節
春、恋の季節




グリーンからあっさり承諾をもらい、無駄に力む必要は無かったなと一人反省会をしていてふと思った。なぜかニンフィアちゃんに触覚で慰められる様に頭を撫でられているグリーンに聞いてみる。


「そう言えばグリーン、ニンフィアちゃんと口論?してたみたいだけど何かあったの?」

「へ?」

「なんか、愛情表現がどうのこうのって」

「!! なんでもねぇよ!なぁニンフィア!!」

「フィ〜・・・」


一瞬にしてジト目に変わったニンフィアちゃんを見る限り何もないとは思えないけど、教えてもらえる雰囲気じゃないということはわかった。





「ナマエの寝顔にキスしようとしたこと、絶対にバラすなよ!!」

「・・・・・・(ジト目)」