私の手に乗せられているズミさんの右手をうっとりしながら指でなぞる。色白で長い指、爪は綺麗な楕円で女性的だけど全体的には関節が主張している骨ばっている手。何より手フェチを唸らせるのはその手の甲に浮かび上がった中手骨!手首の尺骨茎状突起!!


「ハァ・・・もうホント素敵・・・!ズミさんの手を見てるだけでご飯が進みそう・・・」

「私の料理人としての存在を否定するようなことを言わないでいただけますか」


呆れ顔のズミさんが私を見下ろす。


「ああそっか!この手は造形が美しいだけじゃなく美味しい料理まで生み出せるんだ!なんてハイスペックな手・・・!一家に一つ欲しい手ですね!!」

「手だけですか。このズミの手以外の存在を無にするとはいい度胸です」

「あああ違うんです!!そうじゃなくて、とにかくズミさんの手が私好み過ぎて辛いだけなんです!!」


振り払われないことをいいことにズミさんの手を堪能するのを止められない。料理人というだけあって清潔に保たれ短く切り揃えられた爪もまたポイント高し。浮き上がった血管も非常にセクシーだ。ズミさんの言葉を借りるならまさに芸術!!


「本当に綺麗・・・この手に調理される食材は幸せですね!」


この美しい芸術的な手に触れられ、食材もまた芸術品と見紛うばかりの料理に変えられていく。私が食材だったらこの手に剥かれようが切り刻まれようが本望!


「食材が羨ましい・・・」


ほう、とまた一つため息を吐いた。
手に夢中の私の耳に届いた フ、と笑った気配。


「でしたら」


私の両手にいいように弄ばれていたズミさんの手が、急に意思を持って動き出す。私の手をすり抜け、その人差し指と親指でクイ、と顎を持ち上げられ、上向きになった視界いっぱいに青い瞳の三白眼。ズミさんの薄い唇から紡がれる言葉が、吐息が、私の唇に当たって、キスする距離みたいに近い。


「貴女も調理して差し上げましょうか?」


つ、と軽く唇をたどる親指に驚いた心臓が勢いよく跳ね出した。さっきまで、私の手の中にあった温もりが、感触が、芸術が!くちびるに・・・!


「え、あ、あ、」

「ふむ、どう調理してくれようか・・・おや?もうボイルされているようですね」


それはおそらく私の血流が良くなりすぎた顔を指すのでしょうか!自分で散々触ったくせに触られるともうなんだか逃げ出したい。のに、


「私としては、」


深海のような青の瞳から目が離せずに、


「そのまま、かぶりつきたいところです」


実際、かぶりつかれました。



貴方




お触り代はタダじゃなかった。