唇に押し当てられる、私のものではない感触に、徐々に意識を取り戻す。あぁ、こんな感覚、前にもあったなぁ。


「おはよう」


声の主に顔を向けると、肘をつき僅かばかり高い位置から私を見つめるレッド。身体をこちら向きにして隣で横たわっていたようだ。この状況・・・また私、レッドの部屋で寝ちゃったのか。どうやらレッドがベッドまで運んでくれたらしい。


「今日もぐっすりだったね」

「ん・・・寝不足って訳じゃないんだけどな・・・。いつも寝ちゃってごめん」

「いいよ。寝顔、見てて飽きないし」


笑いながら私の髪を梳く優しい動作に、また瞼が落ちそうになるのを堪える。それを知ってか知らずか、その手が止まることはない。


「さっき、キスした?」

「うん。した」

「やっぱり・・・ねぇ、前にも寝てる私にキスしたことあるよね?」

「なんだ。バレてたの」

「うん。前にもこんなことあった気がしたから」


そっか。と笑うレッドの手が撫でるように移動する。頬に柔らかく乗せられた手の親指が、私の唇の感触を確かめるようにふに、と押される。


「バレたついでに白状するとね。寝てるナマエに最初にキスしたのは10才の頃」

「えっ、そんなに前・・・?」

「うん。その頃からナマエが大好きだった」


ごめんね、なんて悪びれもせずに言う。だけど、知らぬ間に奪われていたファーストキスよりも、ずっと前から好きだったとレッドに言われた事の方が大きく心に響いて。ゆるす、と小さく呟いたことは触れたままの親指からでも確認できただろう。

私の許しを得て調子に乗ったのか顔中にキスを落とすと同時に、服の上から私の身体の感触を確かめるように這う手。その意図が何なのかわかってしまった私はビクリと身構えてしまう。


「・・・いい?」


何を、だなんて言うだけ野暮だ。顔に熱を伴いながら、私は頷いた。レッドといつかこうなるってことはわかってたし、期待してもいたけど、まさか今日だなんて。


「もうひとつ白状してあげる」


私の上に移動した流れでレッドが続けた。クス、と口の端が吊り上がるその余裕に、なんだか手慣れてる・・・?と一抹の不安を覚えずにいられない。それに、まだ白状することが?


「ナマエとするの、これが初めてじゃない」

「ーーーーーえ?」


私と、するの、これがはじめてじゃない?私は初めてでーーーーー


そこまで考えた時、ひとつ思い至りゾクリと背筋を伝う悪寒。慌ててレッドの下から抜け出そうとした。が、私の動きを読んでいたのか両手を取られベッドに縫い付けられる。


「ダメ、逃がさない。いいって言ったでしょ」


楽しそうに見下ろすレッドが急に怖くなる。怯える私に追い打ちをかけるように私の耳に唇を寄せた。

レッドは私としたことがあって、私は無くて、私はいつも眠ってしまって、それはつまりーーーーー


「起きてるナマエとは、初めて」


だから、たくさん声聞かせてね。というレッドに、私の考えは外れていなかったと裏付けられ血の気が抜けた指先からカタカタと震え始めた。


そんな。
レッドが、こんな人だったなんて。


首筋に顔を埋められ、口付けられる。服の下で直接肌に触れる手に一切の迷いはない。その慣れこそが真実なんだと確信する。

嫌だ、屈したら負けだ。下唇を噛んでレッドを喜ばせるような声を抑えるけど、それすらも嬉しそうに見下ろしてくる。いつから?いつからこんなに歪んでいた?

せめてもの抵抗で顔を逸らした際目に入ったのは、飲み干したジュースのグラスだった。


キミの身体がボクを知ってる
キミの身体がボクを知ってる