買い物ついでにダイゴが先日家に忘れていった石の本を届けたら、上がってお茶でも飲んでいってと勧められたのでそれじゃあ、と少しだけお言葉に甘えるつもりが、甘えまくった結果長居してしまった。もう外でヤミカラスが鳴いている。届けたらすぐに帰るつもりだったのに。

もう一度言う。買い物ついでにダイゴに届け物をしたのであって、ダイゴに会うついでに買い物をしに来たんじゃない。ダイゴがついでなのであって、渡したらすぐにバイバイする予定だった。

つまり何が言いたいかというと。

そんな風に帰らないでと色っぽく迫られても、準備不足で迎え撃てる状態じゃないってこと!!

上質なソファーの上で私に傾けられつつあるダイゴの体重を押し返す。


「ごめんね悪いけど今日は帰ります」

「どうして。予定でもあるの?」

「買い物をしたあと家でゴロゴロする予定があります」

「・・・まさかそんな予定に僕が負けるなんてね」

「すごく大事な予定です」

「却下。ほら、僕といる方がずっと楽しいよ?」

「わっ?!」


のし掛かられる重さに耐えきれず遂に押し倒されてしまった。容赦無く体重をかけられ圧迫され う、と呻いていると服の裾から脇腹に忍び込む感触。ダイゴのしている指輪のせいで冷たいのと擽ったいのと、2つの刺激が走る。ダイゴの言う「楽しい」ってどういう意味だこの変態!!


「やっ、やめ・・・!」

「大丈夫。その内帰りたくなくなるよ」

「違う、そうじゃなくてっ」

「往生際が悪いなぁ」

「もおっ!ちゃんと聞いて!!」


ダイゴの肩を強めに掴んで突っぱねる。肌を弄る手が服から抜けて、ダイゴはムッとした表情になったけど、ちょっと子どもっぽいその顔が可愛いとは言わないでおく。


「なに。そんなに嫌なの」

「違うって!あのね、私今日ダイゴとそういうことするって全く考えてなかったから、全然準備できてなくて!」

「準備?」

「こっ心の準備と・・・あと下着・・・」

「下着・・・?」

「よっ要するに!勝負下着じゃないってこと!!」


言ってて恥ずかしくなってきた。何言わせてんだこの自称いちばん強くて凄いストーンゲッター!無機質なものばっかり相手にしてきたせいで繊細な乙女心への配慮を忘れたのか。

これでも、ダイゴとすることを想定した日は自分でもちょっと派手かな、私にしてはセクシー過ぎるかなっていう身の丈に合わない下着を幻滅されたくない一心で厳選してんだぞ!ついでに言うと普段は長年愛用のお尻をすっぽり覆ってくれる深めでよれよれの綿パンツと、カップ付きタンクトップです。上下セット物じゃない上にブラさえサボるという女子力のなさ。そんな事実を白日の下に晒すわけにはいかない。これもダイゴの為なんだぞ!

この必死さ、念力になって伝われ。そんな視線で訴え続ける。するとダイゴは顎に手を当ててふむ、と考えるポーズを取った。そして。


「・・・そうだね。女性にとってそういうことって、すごく大切だもんね」


! わ、わかってくれた・・・!?さすがダイゴ、石ばっか相手にしてるけど元は英才教育を施されたお坊ちゃんだった!見直したよ!!さっき心の中で悪態ついてごめん!

そういうことなので起き上がって胸を撫で下ろす。


「良かった、わかってもらえて・・・」

「なーんてね」


声が重なった。と思ったら肩を押されてさっきと同じ景色に戻る。


「え、あれ、ちょっと、」

「僕たちの間に遠慮なんて言葉が必要だと思う?答えはノーだ。そんなの要らない」

「いや要るよ!親しき仲にも礼儀ありでしょ?!」

「遠慮は礼儀に含まれないよ」

「屁理屈!!」

「それにむしろ気になるなぁ、今の下着。見せてよ」

「だっダメダメダメ!!」


組み敷いてる方、敷かれた方。上からの重力、下からの抵抗。男と女の力の差。不利な条件が全部該当している私に勝ち目は無く、全て脱がされた訳ではないにしろ下着はバッチリお目見えしてしまった。ダイゴの動きがピタリと止まる。
あああ今日のパンツはボロボロになって糸がほつれても尚大切に履き続けている私の大好きなチュリネ柄の綿パン・・・!


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・フ、フフ!アハハハハハハハハ!」


ば、爆笑された・・・!え、なにこれなんか屈辱的なんだけど・・・!クソッ!だから嫌だったんだよ!!


「君さ、いくらチュリネ好きでもこれ・・・!ボロボロじゃないか!いつから穿いてるの?!」

「え、えっと、軽く10年は前かと・・・」

「アッハハハハハハハハハ!!!」


私の上でお腹を抱えて大爆笑のダイゴ。すごい、こんなに笑うダイゴ久しぶりに見たわ。しかもその笑いのネタが私のパンツって。なんかやるせない気持ちになってきた。あ、ブラはお咎めなしか。よかったよかった・・・?


「じゅ、十年て・・・!物持ち良いとかそんなレベルじゃないし・・・!アハハハハ!やっぱり君って最高だよナマエ!」

「・・・どーも」


もう目に涙を溜めるくらい笑ってるダイゴ。ねぇ私何しに来たんだっけ。ダイゴに本返しに来たんだよね?パンツ笑われに来たんじゃないよね??やだもう帰りたい。


「あの・・・ダイゴさん。もう充分に笑いを提供できたと思うので私帰りたいんですが」


目尻の涙を拭いようやく笑いが収まったらしい。このパンツのおかげで笑いは生まれたけどあっちの方は萎えたと思うし、何より私の気分が急降下だわ。むしろ墜落したわ。そんな私にダイゴはさも当然のように言う。


「え?駄目だよ?本番はこれから、でしょ?」

「ほんば・・・?!えっ この下着じゃ流石に萎えるでしょ!」

「全然。むしろいつも僕の為に気合い入れてくれてたんだなぁって思うと堪らないものがあるよね」

「〜〜〜っ!」


バレた・・・!背伸びしてるの気付かれた!とても爽やかな笑顔のダイゴに言い返す言葉がない。今日私一方的に恥かいてない?

ソファからダイゴが降りたのを確認して急いで起き上がったところ、膝裏と背中に手を回され、半端に脱がされかけた格好で抱きかかえられる。


「ぅうわぁっ!?」

「僕はこれでも構わないけど・・・普段の下着を見られたくないのなら、僕に会う時は常にこういうことになるつもりでおいで」


こういうことって・・・!
そのまま歩き出すダイゴを慌てて止める。暴れるとパンツが更にこんにちはしちゃうので、あくまで言葉による制止だが、笑顔でかわされる。これは帰りたい私の希望からどんどん遠のいているのでは?!


「待って待って待って・・・!」

「何?これで下着の問題は解決したじゃないか。あぁ、そうか。あとは心の準備だっけ?」


私を抱えたまま器用に部屋のドアを開けるダイゴ。待って待ってこの部屋は寝室・・・!


「そんなの最初からいらないよ。その気にさせるのが僕の役目だ」


ボフリとベッドに降ろされ囁かれた言葉に、もう私の抵抗は何の意味も持たないことを悟った。大人しくなった私の唇に良い子へのご褒美のような短いキスが贈られる。それを合図に、ダイゴのいう"楽しいこと"に耽る時間が始まってしまった。


・・・まぁ、下着ごときじゃ私に対する好感度の影響にはならないっていうこと。ちょっと嬉しかったけどね。



武装不充分にて
武装不充分にて




そして後日。
笑いを堪えながら差し出されたダイゴからのサプライズプレゼントは、チュリネ柄の綿パンツ10枚組だった。

もう絶対勝負下着とかつけてやらない。