ポケモントレーナーとして旅をしていたら、ある日片思いをしている女の子に恋の手助けをお願いされて。ポケモン達と一緒にサポートを請け負った訳なんだけど、それからこういうことにすっかりハマっちゃって。なんだろう、こう・・・掲示板のスレッドタイトル風に言うとしたら 「人の恋路楽しすぎワロタwww」的な?その後数多の人々の恋を成就し、今では通り名が「縁結びのナマエ」だ。これ、ちょっと自慢。

今日も今日とて人の恋路を見守り時にはサポートします!今日のターゲットはシルバーくんとコトネちゃんだ!コトネちゃんは気付いてないみたいだけど、シルバーくんは間違いなくコトネちゃんが好きだ。好意がツンデレな態度の端々に感じる。


「コトネ、荷物貸せ」

「えっ、何で?」

「俺がいるのにお前の方が重そうな荷物持ってたら周りの視線が気になるんだよ」

「考え過ぎだよ〜」

「いいから!」


そう言ってコトネちゃんから荷物を奪うシルバーくん。持ってあげるって素直に言えないシルバーくん萌え!!可愛いなぁ可愛いなぁ!!!


「おい不審者」

「うわっ!?」


突然背後から掛けられた声に驚き振り向く。目が合ったそいつは中指人指し指を揃えたチョキをこめかみに当て「よっ」といつもの挨拶を口にした。


「グリーン!脅かさないでよ!あと不審者じゃない!!」

「さっきから見てたけどお前ニヤニヤしてて充分怪しかったぜ?」

「えっ 見てたの?!悪趣味!」

「お前ほどじゃねーよ!」

「失礼な!私は任務を全うしようとしてるだけ!」

「任務ゥ?あぁ、自称縁結びってやつか」

「自称じゃないよ通称だよ!!」


会話中もシルバーくんとコトネちゃんから目を離さない。そんな私に気付いたのか「次のターゲットはコトネとシルバーか」と呟く声が聞こえる。


「そっ!シルバーくんてコトネちゃん好きなのバレバレだよね〜!」

「ほっといてもその内くっつくだろ、あの2人」

「そのくっつくまでの過程を見守るのも私の任務なの!むしろムズムズキュンキュンするこの過程が大事なの!!」

「お前が楽しんでるだけじゃねぇか!」

「あっ まずいこっち来た!隠れて隠れて!!」


見守っていた2人がこちらに向かって来たので、慌てて路地にグリーンを押し込み私も続く。私達はあの2人とバッチリ面識があるから、眺めてニヤニヤしたい(おっと本音が!)私としては今見つかってはまずいのである。

路地に入りこっそりシルバーくん達の様子を窺っていると、隣にいるグリーンが話しかけて来た。が、私の目はあの2人に釘付けだ。


「・・・なぁ。お前が仲取り持ったカップルってどれぐらいいるんだ?」

「なんとね!この前30組を達成したよ!」

あっ、コトネちゃんがクレープ屋さんの屋台に誘惑されてる!

「へぇ。お前が協力してくれたら必ずカップルになれんの?」

「う〜ん・・・必ずって訳ではないんだけど、お互いがフリーでよっぽどのことがない限りは可能性あるね」

おっいいぞシルバーくん!そうそう!どれがいいんだ?ってさりげなく聞いて!

「成就率は?」

「ん〜・・・85パーセントってとこかな」

おっとシルバーくんが率先してお会計に行ったー!!2人分のクレープを受け取りひとつをコトネちゃんに差し出すシルバーくん!イイネイイネ!ポイント高いわ・・・!

「すげぇじゃん。それってやっぱりお前の手腕な訳?」

「もちろん!って言いたいけど、1番はやっぱり恋してる人の熱意かな。本当にその人が好きでどんなチャンスも逃したくないって人にはこっちも全力で応えてあげたくなっちゃう」

おっ!コトネちゃんがシルバーくんのクレープにも興味を示した!!これはアレですね?!お互いのを一口ずつ交換するラブイベントの前振りですね?!!

「・・・じゃあさ、もしオレがお前に協力してっつったら協力してくれる?」

「おっ 好きな子いるの?任せて!今のところ成就率8割強だよ!大船に乗ったつもりでいてくれていいよ!」

あああシルバーくん!そこ恥ずかしがっちゃダメだよ!!チャンスだよ?!

「心強いな。じゃあお願いするぜ」

「任せてよ!ま、グリーンならすぐに成就しそうだけどね!シルバーくん達に比べたら!」

あっコトネちゃんからシルバーくんのクレープにかぶりついた!ラッキーだねシルバーくん!!そのままお前のもよこせって流れを、


そこまで脳内実況していると急に景色が変わった。肩を引かれて外壁に押し付けられたからだっていうことは服越しにグリーンの体温が伝わる頃、ワンテンポ遅れて理解できた。ち、近いな!

コトネちゃん達のいる通りを確認すべく顔を横に向けると壁に手をついたグリーンの腕によって妨害される。なんだなんだ?再びグリーンと向き合う。

「言ったな」

「ん?」

「オレならすぐ成就するって言ったな」

「まぁ、女の子の扱いもスマートだしナルシストが玉に瑕だけど顔は良いし実力もあるし。モテ要素網羅してるから大丈夫でしょ。あと近いよ離れて」

「それは光栄だ。じゃあさっそく協力してもらおうか」


私の要求は全く聞き入れずにグリーンは続ける。そこまで必死にならなくたってちゃんと協力するわ!


「オレの好きな奴は自分に向けられてる好意に全く気付かないニブい奴で」

「うんうん、」

「そのくせ他人の恋路にはやたら首突っ込みたがる」

「えっ 同業者?!」

「ついに通り名まで〈縁結び〉になっちまった」

「えええ大変!!ライバルがいたなんて・・・!」

「仲を取り持ったカップルはこの前で30組」

「実績まで被ってんの?!」

「成就率は85パーセント」

「・・・」


あれ?


「だからオレの恋も叶えてくれって言ったら大船に乗ったつもりで任せてくれ、だってよ」

「・・・・・・」

それって、

「オレならすぐに成就するんだと」


わ、私!?


「・・・嘘じゃねぇよな?縁結びのナマエサンよ」


余裕そうに笑っているけど顔が赤いグリーン。感染したように顔に熱が登る私。
どうやら私の事が好きらしい?グリーンに、よくよく考えたら壁ドンされて更に言い寄られているという状況に、今更だけど物凄く恥ずかしくなる。心臓も慌てだしドクドク言っている。


「オレの熱意は筋金入りだぜ?全力で叶えてくれるんだよな?」

「そ、それは・・・」


相手が私以外の話で、なんて声帯が萎縮しちゃったような今の私には無理だ。ただバカみたいに顔が熱い。顔のどこに力を入れてグリーンを見ればいいのかわからない。いや、もう直視できない!堪らずに顔を背けた。


「ははっ!」


グリーンの吐息がかかる。笑われたけど、私今どんな顔してるんだ?


「かわいいな、お前」


えええちょっと勘弁して・・・!



他人の恋路は蜜の味、
他人の恋路は蜜の味、

 自分の恋路は・・・?
 自分の恋路は・・・?



「あっ!見て見てシルバーくん!白昼堂々壁ドンしてる人がいる〜ってグリーンさんじゃないですか!何してるんですかこんな所で!あれ?ナマエさん?」

「コ、コトネちゃ・・・!」

「ようコトネ、シルバー。見てわかるだろ?今コイツ口説いてんだよ」

「「くど・・・っ?!」」

「えっ!何ですかそれ!!詳しく聞かせてください♪」


ーーー後にコトネちゃんと立場が逆転するなんて思ってもみなかった。