今なら好きだと叫んであげる



「はぁ、聞いてよ。僕、何もなし男だってさ。」
「ふーん、お生憎様。ドンマイトッティ。」
「もー、ちゃんと聞いてよ。最悪!」


また合コンに行ったらしいトド松。急に呼び出されたかと思えば、いきなり愚痴り始めた。女の子はあつしくんに総取りされた上につけられたあだ名は【何もなし男】。おかげでトド松がお酒をハイペースで飲み始めるし困ったものだ。


「トド松はさ、何もなくないじゃん。言いたきゃ言わせとけばいいんだよ。」
「でもぉ〜〜」
「はぁ、くっそめんどくせ。」
「ああっ!小声で言っても聞こえたんだからね!!なんでそんなこと言うのさ!!!」
「めんごめんご。」


やっと運ばれてきた私の梅酒に少しだけ口をつける。ここまでベロベロに相手に酔われたら飲みたくても飲みにくい。大きなトド松のジョッキはもう半分以下まで減っていた。


「トド松、そろそろ抑えなよ。弱いのにのみすぎたらダメじゃん。」
「これが飲まずにいられる?!ぐやじいよぉ〜!!」
「はいはい……。」


この前はお兄ちゃんたちに合コンを邪魔され、今度はあつしくんに総取りされて、目の前でこんなに号泣されるとトド松も大概可哀想かも、なんて同情の念がだんだん湧き上がってきた。普段は末っ子万々歳!なんて笑っているトド松だが、こんな姿を見ていると果たして万々歳なのだろうか。と疑問まで持ちたくなってくる。

お酒で余計に涙脆くなったトド松は、えぐえぐ言いながらおつまみを頬張っている。ほんと毎回懲りないなぁ、この子も。


「で、あつしくんは誰かとランデブーしたの?」
「いや、それがね、"明日仕事だからごめんね"ってみんな断ったらしいんだよ?!信じられる?!あり得ねーよ!!」
「ふぅーん。トド松は誰か持ち帰りたい子いたの?」
「まだめぼしい子見つけられなかったけど、そりゃDT卒業したいよぉ〜!!」


トド松、声大きい。ここ居酒屋。お客さんめっちゃいるって。

私がなんとか宥めると、トド松は机に突っ伏して何かブツブツ言っていた。人の気も知らないで、ほんとに毎回バカよね。トド松。いや、バカは私も同じか。
合コンの話だってホントは聞きたくないし、可愛い女の子の話なんてもっと聞きたくない。あつしくん総取りありがとう。なんて最悪なことまで思っちゃってる。トド松のこんな愚痴を聞くのはいつも私だ。信頼してくれてることはすごく嬉しい。でもそれは恋愛対象に入れてないってことも同時に意味している。中学の頃から一緒だから仕方ないのかもしれないけどね。泣きたいのはこっちの方だよばーか。

トド松本人は「えだまめぇ……」とおつまみの催促。どうせ今日も私の奢りだろ遠慮なしに食べやがって。


「すいませーん、枝豆追加で!」
「はいよ!」


……こうやって、甘やかすのが私のダメなところだ。惚れたもんが負けってのは案外当たってる。


「トド松、あつしくんに女の子取られて悔しかったね。何もなし男なんて言われて嫌だったね。……でもね、私は何もないなんてほんとに思ってないよ。嫌な奴だったら私とっくにトド松から離れてるよ。」
「……ほんとに?あつしくんより僕の方がいい?」
「うん、トド松の方がいいよ。」
「ほんとかなぁ。」


……いや、まだ疑うんかい!!!
どんだけ女性不信?!私の勇気返してよ!

トド松はジョッキからビールをコクンと喉に通す。耳も頬もほんのり赤くて目も涙目。成人男性にしてはなんとも情けない姿でどうしようもない。

それなのに、こんなにもいとおしいと感じてしまうのはなんでだろ。


「トド松が特別だから、こんな夜中でも急いで来てあげるんだよ。」
「特別?」
「私、トド松が友達なんてとっくの昔から思ってない。」
「ちよこ、」
「トド松が合コンいったら悲しいし、女の子とデートしてたらそわそわするし。トド松がご飯誘ってくれたら嬉しいし誕生日覚えてくれてたらそれだけで幸せ。」
「ちょ、」


「ねぇ、私じゃだめ?」



すっかり酔いが冷めてしまったのか。目を真ん丸にしたトド松は口をぱくぱくしている。顔はさっきよりも真っ赤だ。
私は彼を逃がさないように視線を絡めたまま離さない。彼の瞳に映った私は、かっこ悪いくらい顔を赤くしながら意地悪そうに微笑んでいた。




今なら好きだと叫んであげる




『合コン、いかないで。』
なんてわがまま、あなたは聞いてくれるかしら?


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title by.誰そ彼

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