30秒後の世界はいかがですか

今日は快晴だった。だから、一緒にお買い物に行ってお昼はテラスのついたレストランにいって青空の下でご飯を食べて、午後からは2人でのんびり歩いて、あわよくばいいところまでいけたらいいな、なんて思ってた。

「え、今日にゃーちゃんのライブって言ってなかったっけ?」

なんてあの童貞クズドルオタニートが言い出すまでは。
にゃーちゃんが好きなことは知っているし認めている。確かに可愛い。でも彼女よりライブを優先させることは気に食わない。限定品?今日しかない可愛さ?いやいや私だって今日しかない可愛さ持ってるかもしれないじゃん。

「私とデートしないの?」「だからライブが……」「彼女よりアイドルなの?」「また明日でもデートはできるじゃん。」「私は今日がいいのに!」「僕だって今日しかないんだよ!」

「「この、わからず屋!!!」」

私が素直に「寂しいから一緒にいて」なんて言えないことが私の1番の欠点であることは私が1番わかっている。素直に言えないからわがままみたいになっちゃうこともわかってる。だから、素直になれるように何回もシュミレーションした。でもチョロ松を前にするとどうしても上手くいかない。全然可愛くもない言葉ばっかり出るのだ。そのおかげでこのザマだ。チョロ松はいつものクソダサい服装で怒りながらライブに行ってしまった。
ピシャンと閉められたドアが妙に悲しい。




そんなやりきれない私の思いは、毎回豪雨の如く彼の兄弟たちに降り注ぐのだ。これまた申し訳ない。今日も例外なく、居間で様子を恐ろしそうに眺めていた彼らに矛先は向いた。今日は朝早い(といっても10時)だからか5人ともきっちり揃っていた。

「おい、おそ松カラ松。テメェらの弟だろ、どういう教育してんだよ!!」
「ちょ、ちょっとまって、そりゃないよちよこちゃんー。お兄ちゃん関係なくない?」
「フッ……チョロ松にもそろそろレディーのナイトになるための心得を教えてやる時が……」
「うるっさい!!ってこら!トド松逃がさねぇぞ!」
「もぉー、最悪!ボクこれから出かけるから離してよ……」
「は?嫌だけど。」
「人でなし!!」

おそ松は困ったようにまゆを下げている。その手には競馬雑誌。これから予定でもあったのだろう。でも競馬だから別に行かせなくてもいい。むしろ行かせない方がいい。
私に一喝されて涙目のカラ松には悪いことをした。チョロ松に俺が叱ってやるぜとでもいうニュアンスだったのだろうけど、言い回しがなんだかイラついて怒ってしまった。ごめん。
トド松はどうせ女の子とデートだ。絶対行かせない。こういう話にはトド松のアドバイスが一番的確なのを私は知っている。今まで素直になれとしか言われたことないけど。
一松と十四松はハラハラした顔で黙っている。私がチョロ松と喧嘩したとたん一松は猫を外に避難させ、十四松はバットを隣の部屋にそっとしまっていたから私の愚痴を聞く1日コースだと悟ったのだろう。

「ちよこちゃんもさ、素直じゃないのがダメなんだからね。"晴れてるしデートいこ"なんてぶっきらぼうなのダメだよ。」
「トド松はいつもそう言うけど、今更私が可愛くしたって気持ち悪いだけだし素直になれたらとっくになってるよ!」
「別に気持ち悪いとは思わないけど……それに素直になれないこと威張らないで!」

トド松に頭を軽く叩かれる。「わかってるけどぉ……」と呟いて机に突っ伏した。
アイドルは彼の趣味。趣味を否定したくなくて認めた。でも本当は寂しいしなんだか悲しい。可愛い可愛いと言ってサイリウムを振るチョロ松は私といる時よりずっとずっと楽しそうだからだ。考えれば考えるほど自信はなくなってすごく泣きそうになった。
ごまかすように正座していた足を伸ばすと、足先に紙のようなものが触れた。お金か?と淡い期待を抱き、手に取ればそれはチョロ松とにゃーちゃんのチェキだった。
私がそれを見て固まったと同時にそれに気づいた彼の兄弟たちもピシッと固まる。部屋の温度が明らかに下がっていくような感じがした。

「チェキ……」

そう口に出した途端、一気に涙腺が崩壊した。照れたように笑うチョロ松に可愛いにゃーちゃん。これ、にゃーちゃんが私服だったら絶対彼氏と彼女だよ。ポロポロと情けないくらい涙は出てくる。
女の子の扱いに慣れていない童貞ブラザーズは突然泣き出した私にあたふたしていた。十四松はチェキをこれ以上見せまいと私から素早く奪ってどんぐりだらけのポケットにしまった。チョロ松に怒られるんじゃない?大丈夫?
隣に座ってたトド松とカラ松はなんとかなだめようと背中をとんとんしてくれたり慰める言葉をかけてくれたりする。それでも私の涙は止まらない。自分でもどうすれば止まってくれるかわからなかった。

ふ、とチョロ松が朝言っていた言葉が蘇る。
『限定品』
確かに彼はそう言っていた。ここから少しずつ私の思考はズレていくことになる。

「そうか、彼女になっちゃったからダメなんだ!」

私がスッと立ち上がって叫ぶと皆あからさまに顔を歪めて"何言ってんだこいつ"みたいな顔をした。

「彼女になったから飽きちゃうんだよ!だから私は彼女をやめます。私は水曜日だけチョロ松の彼女になります!!」
「……え、いやいや何言ってんのお前!お兄ちゃんもびっくりの思考回路だよ?!どうゆう意味?!」
「月曜日はおそ松、火曜日はカラ松、水曜チョロ松、木曜一松、金曜十四松、土曜トド松、日曜フリーにしようと思う。」
「馬鹿なの?!チョロ松兄さんに引けをとらないポンコツだよ!とんでもない尻軽女に昇格しちゃったよ!」
「うるせぇ!私は限定品になるんだよ!」
「意味わかんないんだけど!!」

自分で何言ってるのかも自分でわかってない状態で話し出す私。相当クレイジー女だ。でも変なこと言ってないとネガティブな事ばっかり考えてどうしようもなくなっちゃう。おそ松とトド松に猛烈にツッコまれながら私は彼氏計画を脳内で着々と進めた。

「いや、おれは辞退する。別にちよこの彼氏になりたいわけじゃないし。」
「一松、遠慮はいいよ。ウェルカム。」
「ごめん。」
「なんだこれめちゃくちゃフラれた。」
「ボクも辞退ね。ちよこちゃんはちょっと。」
「は?トド松!ちょっとってなに?!」
「ちよこ、本番アリ?」
「おそ松馬鹿なの?あるわけないでしょ風俗じゃねーんだよ。」
「えー、カレカノなのにぃ?」
「兄貴は相変わらず順応性がすごいな。」
「カラ松もね。腰に早速手を回してるじゃん!」
「今日は火曜日だぜ?」
「ソウダネ!」

一松とトド松にフラれるし、おそ松はセクハラだし、カラ松はポンコツだし、あたふたする十四松は可愛いし。
でも、なんだかんだでとにかくみんなが私を励ましてくれてることはよくわかった。今日はいつにもなくみんなを困らせちゃったし、早いとこお暇させていただこう。そう思って立ち上がった時、スパァンとすごい勢いで襖が開いた。

「どういうことなんだよ!!!」

ライブ時間中であるはずのこの時間。立っていたのはチョロ松だ。手には私が誕生日にプレゼントしてあげた緑のカバーがかかったスマホ。走ったのか肩でゼーハー息をしている。どういう事もこういう事も訳が分からず助けを求めるように5人を見ると、トド松がピンクのスマホをこちらに向けた。
画面にはチョロ松との個人のLINE。中身は私が日替わりにしてやると意気込んでいる動画と"土曜日の彼女できちゃった!"という明らかに煽っている文章。断ったくせに調子いいこと書くなぁ。てか、チョロ松になんてもの送ってくれてるんだ。はぁ、とため息をつくと同時に後ろからグッと腕を引かれる。

「ちょっとこい!」
「え?」

手を引いたのは言わずもがなチョロ松で、私を居間から出すとそのままズンズンと廊下を歩き玄関を出た。無言で歩き続けること数分。ついた先は公園だ。平日の公園には人っ子一人いなくてなんだか静か。子供たちが楽しそうに遊んでいるところしか見たことがなかった私にとって不思議な光景だ。取り敢えずベンチに腰を下ろすが会話がなくて居心地が悪い。なにか話さなくては、と声を出したけど思っていたより小さい声しか出なかった。

「ねぇ、にゃーちゃんのライブ終わったの?」
「……終わってない。」
「いいの?」
「いい。」

「そっか」といったけど、掠れたような声しかでなかったからきっとチョロ松には届いてない。ライブ時間中であるにも関わらずそれを抜けて家にかえるほどにあのトド松のLINEに反応したチョロ松。本格的に別れを告げられるかもしれないと自分で蒔いた種なのに怖くなった。

「ほんとに、日替わりにすんの。」

ポロリとチョロ松の口からもれた言葉は悲しそうに震えているようだった。自意識ライジングしてるし、素直じゃないチョロ松がこんなに弱弱しい声を出すのか。びっくりしたと同時に申し訳ない気持ちになった。

「……あのね、」
「ちよこ、素直じゃなくてごめん。いつも優しくしてやれなくてごめん。」
「え……」

冗談だよ。そう言おうとして彼を見ると、被せるようにして声を発したチョロ松。チョロ松も私の方を見たために、小さなベンチに座っていた私たちの距離は一気に縮まる。チョロ松の瞳は不安そうに揺れていて、声だって絞り出したようにか細かった。

「お前が兄さんたちや弟たちと話してると情けなくなるくらいに腹立つよ。でも、悟られたくないからいつも刺々しい言葉になる。僕は恋愛に関してポンコツだし何したら悲しむとか分かんなくていつも傷つけてるかもしてない。でも、でも……」

チョロ松の言葉が優しく心に染みていく。私が家にお邪魔する時、いつも1歩引いたようにしていたチョロ松がそんなふうに考えていてくれていたかと思うと嬉しくてたまらないし、同時に私の行動が悩ませていたんだと思うと胸が痛い。
チョロ松は「でも、」というところで固まってしまっている。聞きたい、って思いを込めて彼の手を握ると肩がビクッと大きくはねた。それでも彼の手をできるだけ優しく包み込むように握り続ける。しばらくするとチョロ松の強ばっていた頬が照れくさそうに少し緩んだ。

「でも、誰よりも好きだから。僕だけのちよこで居てよ。」

「ほかの奴らのになんかなんないで」そう言って私の肩に顔を埋めたチョロ松。サラサラの髪が首に触れてこそばゆいけど、やめて欲しいなんて思わなかった。あたたかい気持ちで心がいっぱいいっぱいだ。

「私、素直な女の子じゃなくてごめんね。ひどいこと言ってごめんね。本当はね、寂しかっただけだから……。だから、ごめんね。」
「うん、僕もごめん。」

ぎゅ、とチョロ松を抱き寄せたら、チョロ松の力も少し強くなる。悲しい気持ちなんてこれっぽちもなくてさっきまでの暗い気持ちが嘘みたいだ。

あのね、チョロ松。
__ライブの時は携帯の電源切ってること、私知ってるんだよ。

必死、という言葉がぴったりなくらいの形相で家に帰ってきたチョロ松が思い浮かぶ。ケンカしたらいいのか悪いのか分からないが基本LINEでの会話になる私たち。チョロ松はメッセージが来ることを見越して電源をつけたままでいてくれたのだろうか。私のことずっと気にしてくれてたのかなぁと思うと、熱で溶けたマシュマロみたいにあまったるい気持ちになってムズムズした。


私の背中に手を回す彼の手が少し震えていてどうしようもなく彼が愛しいと感じた。


30秒後の世界はいかがですか


"愛してる"


ケンカしてたって、今度は素直に言うからね。



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title by. 誰そ彼


20160922

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