▼なぞるだけで破裂する境界線

誰かに後をつけられてる。

そう感じたのはついさっき……ではない。ずっとずっと前からだ。一定の感覚をあけて、近づくわけでも遠ざかるわけでもなくコツコツと足音は近づく。きっと家も知られてるし逃げても逃げ切れない。そう悟って今まで放置していたのがいけなかったのだろうか。今日の足音は少し違った。
私が少しスピードを緩めても足音は緩まない。確実に私に追いつくようにその足音は近づいてくるのだ。怖いと感じた時には既に遅い。足音の主はもう、すぐ後ろにいた。急いで飛び込んだ近くのコンビニ。震える手で彼氏のチョロ松くんに迷惑を承知で電話をかけた。

コンビニについたら話を聞く。そう言い残してチョロ松くんは電話を切った。彼のあたたかな声に少し落ち着く。いつもだ。いつも彼は私がピンチになると助けてくれる。私が女の子から意地悪されそうになった時もいち早く助けに来てくれた。不良に絡まれそうになった時も。元彼にしつこく付きまとわれた時も。

彼は私を助けてくれたけど、和解できたことはなかった。相手が泣きそうな、怯えたような表情で私にひたすら謝るだけ。そして私はそんな顔をしている人を責めることがでるわけなく、そのまま許すのだ。チョロ松くんはそれを見て、「よかったね」と相手の肩を叩く。その肩がビクリと大きく揺れるのもいつものことだ。
私を守ってくれることは嬉しいけど、でもとても怖かった。彼は、私が絡むと家族さえ殺めてしまいそうな勢いなのだ。なにを自惚れてるのか。そう思われてもおかしくないだろうけど、彼の瞳を見ているとそう思わざるを得なくなる。深く深くに沈んだような淀んだ目をしているんだ。


しばらくして彼はやって来た。息を切らして肩ではーはーと息をしている。そんな彼に促されるままに、不安とか涙とか全部をぶちまけた。私の話を1通り聞くと、彼は「ここにいて」と言い残してコンビニの外に出ていった。ちょうど窓もない店の奥。少し彼が心配で、棚と棚の間から顔をほんの少しだけ覗かせた。
私の視界に飛び込んできたのは見たことも無いほど恐ろしい彼の姿。"狂気的"の一言だった。私の元に帰ってくる頃には、きっといつもの彼に戻っているのだろう。そうしてまた私はすべてを許すのだ。



彼には何も言わない。いや、言えない。
私が知ってるすべてを言えば、きっと貴方は私から離れてしまうから。守ってもらうヒロインのような女の子じゃなきゃいけない。そうじゃなきゃきっと私も彼にボロボロにされてしまうでしょう。

好きなのか、怖いのか。最近はよく分からない。
でも、幸せだと少しでも感じるのならば、もうこのままでもいいかなって思うの。

馬鹿なふりして溺れてたら、貴方は私を愛してくれるのでしょう?



*なぞるだけで破裂する境界線*


貴方はきっと、私でさえもためらいなく壊してしまうだろうから。



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