▼優しく腹を切って

あぁ、また彼氏にふられた。
今回は上手くいくと思ってたのにふられた。「男友達と俺どっちが大切なんだよ!!」だってさ。どっちも大切に決まってるのに、そう答えたら怒られた。あぁ、まぁでも当たり前か。

あっさりとした文章で一松を家に呼び付けてお酒とご飯を用意した。私は机のそばに座ってただじっと前を見てぼーっとする。何がいけなかったなんて私はずっと前から知ってる。でも、それを隠すようにして生きているのだ。

一松が家にきて、お酒を飲み始めると自然と涙が溢れた。私はいつも馬鹿みたいに男と付き合って馬鹿みたいに別れる。それなのに一松は優しく私を撫でてくれるのだ。一松は私をろくでなしなんかじゃないって言ってくれた。

でも私はきっとろくでなしなんかより質が悪い。

だって、ずっと一松が好きなままほかの男と付き合ってきたんだもん。

一松が、私と彼氏のデートの日に故意的に遊ぶ約束を取り付けていることはいくら馬鹿な私でもなんどもされるうちにわかった。私と彼氏の間にズカズカ入り込んでいることも、私に一松の話をさせようとしている事も。当然私は彼氏なんかより一松を優先させたし、大好きな一松の話を彼氏に沢山聞かせてあげた。彼氏も一松みたいに素敵な人になれるようにってね。でもそんな想いもつたわらなくていつも別れを切り出される。辛いことには変わりないけどこれはこれで満足だった。

一松に慰めてもらえるから。

私は彼の独占欲を知ってる。絶対的な愛を欲していることも、全部全部知ってるわ。だから私は知らないふりをするの。
欲にまみれたその手に撫でられる快感を知ってしまったから。

一松の腕の中で静かに目を閉じる。きっと彼は今すごく悪い顔をしてるんでしょうね。見てないけど分かるわ。わかるの。
早く彼を私のものにしたい。でもまだはやい。もっともっと焦らして焦らして焦らして。彼が理性なんて保てなくなるくらい焦らしてから底なし沼みたいに私に堕ちて欲しいの。だからそれまで私は馬鹿を演じ続ける。純粋で、綺麗で、清楚で、何も知らないちよこを演じ続ける。あなたのこの心地よい腕の中で、私は静かに生きていたい。私を撫でるこの優しい手も、全部全部私だけに欲しいの。

きっと私はまたあなた以外と付き合おうとする。そうなったら、また私の邪魔をしてね。



「こんな、クズ野郎に気に入られて可哀想だね。……幸せになりたいなら、早く堕ちてきなよ。」


彼の言葉が耳に優しく溶け込んでくる。
あぁ、私はとっくに堕ちてるよ。まだ堕ち切ってないのは貴方じゃない。私がもう誰ともつきあえないくらいになるまで、グズグズになるまで愛してよ。心も体ももうとっくにあなたの物なのに。手を出してくれないのはあなたの方じゃない。


狂気的ながら、切なさを帯びる一松の声。

(かわいそうね、私みたいなクズな女にひっかかって。)

どうしようもなく彼が恋しくなって、そっと彼に身をすり寄せた。


*優しく腹を切って*


こんなにも貴方が好きなのに、私は歪んだ愛情しかそそげない。



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