▼修羅のすむ都
※ある意味無邪気な十四松です。お馬鹿な十四松はホームランされました。
ぼくは初めて見つけた。
儚くて可愛い女の子。
脆くて触れたらすぐに壊れそう。だけどそれが綺麗だった。
その子はボロボロになって廊下に倒れてた。ぼくを見上げるその瞳は二つの想いを孕んでいたように見えた。ひとつはぼくに助けて欲しいと縋るような瞳。はっきり言ってこれには少し加虐心が煽られてしまった。ここで踏んずけでもしたらどんな顔になるんだろ。初めてあった子になんてひどいこと……って思ったけど実際、ぼくの体は若干そわそわした。
話は少し逸れたが主題に戻ると、もう一つは諦めたような気持ちだった。もう誰にも助けなんて求めない。期待なんてするだけ無駄。一つ目と二つ目は対照的な感情だし、矛盾にもほどがある。それでもぼくにはそう見えた。
この彼女を見て、助けてあげたいと思うよりかは自分に依存させたいと思った。無差別に助けを求めるこの目を自分だけに向けさせたい。この諦めたような目を変えたい。嬉しそうに信頼する者に縋る彼女は一体どんな表情になるのだろうか。ぼくはそれが見たくて仕方なかった。
彼女はどうなるのだろうか?
べたべたにあまえるのかな?
それとも静かに寄り添ってくれるのかな?
それともぼくを束縛したりするのかな?
考えれば考える程分からなくなった。だから、ぼくは彼女を普段は絶対しないけど自ら進んで保健室に連れていった。彼女が何者か知りたくて。誰にも警戒されない、天使とまで称されるこの笑顔をはりつけて。
彼女はやはり儚くて美しい人だった。誰にも縋らず生きてきた彼女。甘え方すら忘れてしまって少し遠慮がちだが、もう一人にはなりたくないのだろう。どこからどう見ても怪しいぼくに何も聞かずに微笑んでいる。離れないで、側にいて、そんな気持ちを瞳に孕ませながらぼくを見つめる。
"ひどい怪我、女の子なのに可哀想に。"
そう言えば、彼女はもっと気持ちを強めたようにぼくを見た。ぞくぞくが止まらない。もっと、もっと、彼女が知りたい。もっとひどい怪我すればいいのに。そう思ったぼくはきっと兄弟で1番のクズだ。
ある日、ちよこちゃんは浮かない顔をして保健室に入ってきた。別に精神面とかそこら辺はどうでもよかったし気づかないふりをしていると、ちよこちゃんは胸が苦しそうに口を小さく開いて言った。
「十四松くん。ごめんなさい。」
「え?なにがー?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
「……話して?大丈夫だよ。」
心がぐちゃぐちゃできっと苦しいのだろう。涙は止めどなく溢れ出ている。彼女はひたすらぼくに謝罪を続ける。内容は大体わかる。『放課後もいじめる』きっとそんな内容なのだろう。それをわかった上でぼくの気持ちは高揚していた。あぁ、ついに来るところまで来たんだ。彼女はぼくがいないとダメになるくらいになったんだ。前までの彼女なら『しかたない』で終わっていただろう。でも今は違う。僕に会えなくなることで泣いてる。嬉しい。嬉しい。
彼女が初めて泣いたんだ。
謝り続ける彼女。混乱したように見せるぼく。ぼくは彼女の前では何も知らない、ただ優しいオトコノコでいないといけない。泣く彼女の手を握って「大丈夫。」と優しく声をかけた。安心したのか、涙がまた溢れていた。ぼくはずっとそうだ。彼女に出会った時から、誰よりも異常だ。
「あ、したから、もうここに来れない。」
「どーして?」
「放課後、用事ができる、から……。」
「そ、っかぁ。」
『いじめられるから』そういってぼくに助けを求めるものばかりだと思っていたのに、彼女は用事だと嘘をついた。なんで?ぼくに泣いて縋ってよ。どうして嘘つくの?彼女やはり気丈すぎる。一瞬、ギリっと彼女の手を強く握ってしまった。顔もきっと歪んだだろう。咄嗟にいつもの顔に戻すと彼女は少し不思議そうな顔をしただけでぼくには何も言ってこなかった。
彼女の傷に全て包帯を巻いたあと、にっこりと笑ってぼくはさも当たり前かのようにこう言った。
「明日からもきっと、ここに来れるよ。」
君を手放すなんてありえない。
次の日、ぼくは放課後不快な声が充満する空き教室まで向かった。片手に鋭く光るバットを握って。
「こーんにーちはー。」
「……は?誰だよ。ちよこじゃねーじゃんか。」
「ぼく?ぼくはね、十四松!」
「知らねーし、早く帰……ッ?!?!」
チャラそうな男がぼくに近寄る。それとともにぼくは容赦なく棒を振るった。少し重たい感覚がジィンと手に伝わって身体を震わせる。
倒れ込んだ馬鹿な男。ビビって突っ込んでくる低脳な奴等。ひたすらぼくは棒を振り回した。
お前らはやり過ぎたんだよ。
ぼくたちの大切な時間を奪おうとしてさ。
昼間だけにしとけばよかったのにね。
やり方も足りないんだよ。
ぼくにちゃんと依存できるくらいしっかりやってよ!ほら、こんな感じ!
「や、やめ……」
「特大サヨナラホームラーン!!!」
全てが片付いた頃に開いた扉。顔をのぞかせたのは愛らしい彼女。その顔は真っ青だ。ぼくを呼ぶ声も震えている。
保健室行こう。そう言ったけど、ちよこちゃんは笑ってはくれなかった。
*修羅のすむ都*
あれ、でもこいつら、この怪我じゃ明日からちよこちゃんいじめられないよね?それはちょっとこまったなぁ。