▼亡霊たちが泣いている

いつからだろうか。


俺の愛が歪んでしまったのは。こんなはずじゃなかったのに。無理して、無理させて、追い込んで追い込まれる。負のループにはまって抜け出せなくなって、どんどん依存する。


「おそ松、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。」



(俺ってクズだなって思っただけ。)





*



俺が変な欲求を抱き始めたのはほんの少し前。眠っているちよこを見てぶわぶわと昂るような何かが沸き上がってくるのを感じた。恋人のそれでもない、親が子に抱くような慈愛溢れるものでもなく、兄弟に抱くような微笑ましいものでもなく、もっともっと熱くて深くて黒い何か。はっきり言ってキスよりムラムラしたし、どうしたらいいか分からなくなってしまった。


分からぬままに時は過ぎ、ネットを適当に見てまわっていた時だ、ある検索ワードが気になってクリックした時、俺はずっとはまらなかったピースがやっとはまった気がした。

“ソムノフィリア”

睡眠や昏睡状態に対する性的嗜好。
自分が異常だって思うと同時に納得してしまっていた。そしていかにして彼女を眠らせたまま自分の手元に置いておくかを考えている自分がいた。彼女がもうすぐ本当に自分のモノになるのだと思うと、とてつもないどす黒い欲が喜ぶように全身を駆け巡っていくのを感じた。我ながら、恐ろしく狂気的だっただろう。


「おそ松さぁ、最近家でデート多くない?」
「んー?そうかぁ?でも、まァいいじゃん昼寝できるし。」
「それで1日潰れたらたまったもんじゃないよー。」
「いいじゃないですかオネーサン。ほら、おそ松兄さんの膝を貸してやるから。」
「……はいはい。」


黒い髪を整えて俺の膝に頭を置く。サラサラの髪に指を通しながら頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。可愛い、そう感じるけとあの時の昂りとは程遠い。眠れ、眠れ、深く潜って、早く夢の世界に行っておいで。


「ねー、おそ松は私のことすき?」
「んァ?珍しいなそんなこと聞くなんて。」
「んー、ちょっとね。」
「好きに決まってんじゃん。大好き。」
「ふふ、私も好き。」
「じゃあ、将来はお前が養ってくれんの?」
「ばーか。就職しなさいよ。」


ぴと、と俺の頬に触れた彼女の手は柔らかくてあたたかい。そして少し寂しそうだった。彼女は鋭いから、もしかしたら何か感じ取っていたのかもしれない。それでも何も言わないのは、彼女は優しいから。俺はそれを知ってるから、ずっとそれにつけこんでる。そう、これからもずっとだ。彼女の優しさにつけこんで、彼女の人生の全てを俺のものにするんだ。



眠り姫は、眠っているから美しい。
起きてたらそれはただの少女にすぎない。



「おやすみ、ちよこ。」
「うん。」



数分後、スースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえた。俺は優しく頭を撫でる。何度も撫でる。熱く滾る気持ちは収まらないけど、今それを君にぶつけたらきっと君はそれを好機に離れてしまうだろう。だから、今はぐっとこらえる。




「あぁ、好きだよ。愛してる。」




さっきと言い方が全然違うじゃないって、君は怒るだろうか。
可哀想な眠り姫。可哀想な愛の中でお眠り。


*亡霊たちが泣いている*


君が、泣いた気がした。



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