▼アイスクリームより甘い声

「ねぇ、カラ松?」
「なんだい?」
「私達っておかしいの?」
「……なぜ、そう思うんだ?」


カラ松の腕の中はいつだって安心する。彼もまた私を抱きしめることが大好きだって言ってくれたから前より抱きつく回数が増えた。休みが入れば何があっても彼のための時間にするし、会社の飲み会が入ってても行かない。一度だけ行ったことがあったけど、やっぱりつまらなくてただ時間を無駄にしただけだった。そのあとすぐにカラ松に会いに行ったら、彼はすごく寂しそうな顔をして私を待っていたから“あぁ、やっぱり彼のそばに居なきゃ”って思った。


「おそ松くんが、おかしいって言ったの。私も、カラ松くんも。」
「ブラザーが?」
「異常って。」
「……そんなことないさ。ちよこは異常だと思うか?これが俺たちの愛の形さ。そんなのそれぞれだろ?」
「……そうだね。私、カラ松のこと大好き。」
「あぁ、俺だって好きさ。ブラザーの言うことは気にしなくていい。」


おそ松くんは、私達がおかしいと言った。互いに縛られて縛って何が楽しいんだと言った。お互いにお互いを洗脳しているだけだとも言った。
すごくすごく悲しかったけど、こんな事で私は別れるつもりはない。だって私はもう彼なしじゃ生きていけないから。彼が私の囁く愛を洗脳だと言うのならば、私はその洗脳を使ってでも手元に彼を置いておく。
おそ松くんは兄弟想いだから、カラ松くんが心配なのだろう。ひどい女に捕まったから、助けてあげないといけないと、そう思っているのだろう。だけど今更遅いよ。絶対離してあげない。
カラ松くんが“ブラザーの言うことは気にしなくていい。”と言ったと同時にあの時のおそ松くんの顔が黒塗りにされた気がした。

……どんな表情してたんだっけ?





*



俺はちよこの事で頭がいっぱいだった。これがきっかけで彼女が離れてしまったら……考えるだけで怖かった。彼女の温もりが消えていない腕をギュッと組む。さっき、また明日と手を振ったばかりなのにもう寂しい。
本当は彼女が会社に行く事も寂しい。それでもそこまでわがままは言えないからぐっと堪えている。この前彼女に「飲み会に行ってもいいよ。」と言った。彼女は嫌がりはしたものの「カラ松が言うなら。」と飲み会に行った。彼女にも人付き合いというものがあり、飲み会を欠席し続けるのは人間関係に響いたり、職場でも肩身が狭くなるのではないかと感じたからだ。
それでも、俺の方が耐えられなかった。
いつもは彼女と触れ合っている時間なのに、いつもは彼女と笑っている時間なのに。まるで天使のような優しい微笑みをする彼女は今ここにいない。悲しくて寂しくてどうにかなりそうだった。彼女が目の前に現れたとき、情けないほど彼女に縋ってしまった。でも、彼女もその時一筋涙を流していたから、ちよこも俺を求めているのだと分かって嬉しくなった。

そんなことを考えながら、彼女との別れを惜しみつつ家に入ると兄貴だけがそこにいた。

「兄貴。」
「……カラ松。」
「俺のハニーに悪魔の囁きをしたらしいな?」
「なんのことやら。」
「フッ……じゃあもう単刀直入に言わせてもらおう。__これ以上俺たちの愛の邪魔をするな。」


俺が話しかけてもひょいひょいとかわす兄貴に思わず感情が高ぶる。グイッと胸ぐらを掴んで兄貴を睨みつけながら思ったことを口にすると、呆気に取られたようにしばらくポカンとしてから、「はは、」と乾いたように笑った。

「お前、なんて顔してんだよ。」

それは怒りというよりかは哀れみのような表情だった。可哀想な弟を哀れむ兄の顔。

兄の気持ちは痛いほどわかる。自分が異常なのも知ってる。でもそれを彼女は分からなくていい。分からないまま俺の隣で笑っていて欲しい。兄の言い分は分かるがどうしても邪魔だった。
胸元から手を離し、居間を出る。そんな俺におそ松兄さんが小さく言ったことが耳に入るはずもなかった。

「お前は素直で真っ直ぐすぎんだよ。……いつから、間違えたんだろうな。」



*




彼女の声は甘い。
(彼の声は甘い。)

ビリビリ痺れて虜になる。
(それはまるで蠍の毒みたい。)

彼女無しじゃもう生きていけない。
(彼無しじゃもう生きていけない。)

君に離れて欲しくないから言葉を使って君を操ってる。
(貴方に離れて欲しくないから、分からないふりして縋ってる。)



『声を聞かせて、触れて?』




*アイスクリームより甘い声*

嗚呼、俺達はなんて憐れなマリオネット



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