▼朽ちる音はまだ聞こえない
「一松。ねー、聞いてんの?」
「聞いてるって。てかさ、それ何回目?僕にも負けず劣らずのクズだね。お前も。」
「ひどい。今回はあっちの方が悪いの!」
「あーはいはいそうですか。ビッチの考えてることは童貞にはわかりまへんわ。」
「だーかーらー私はヴァージンやて言うてるやろ!……じゃなくてさ!真面目に聞いて!!」
夜7時前に突然『一松今すぐ家に来て。』とあっさりとした連絡を入れられて何事かと思ってきてみれば、彼女のテーブルの上には大量のお酒と美味しそうな料理が並んでいた。そのテーブルのそばでぶすっとした顔をしながら座って僕を待っていたのは、僕の数少ない友達。しかも女の子。
僕のクズなところもMなところもSなところも丸々理解してくれる人だ。
少し逸れたが本題に戻ろう。僕が彼女に呼び出されることは多々ある。それは決まって彼女が彼氏にふられた時だ。彼女が悪いわけでは決してないし、僕が彼女に先程吐いた暴言にもあるように彼女がビッチなんて事実もない。
彼女は人がいい。だからすぐに彼氏なんて出来るし毎回大事にしてもらってる。ほんとに悪い男に引っかかったなんて聞いたことは僕の記憶上一度だけだ。
付き合うのだからキスもしてるし手もつなぐ。でもどうしても営みにまでは達することが毎回出来ていなかった。その前に必ず別れてしまう。
「はぁーあ。20過ぎてこんなんとかやだわ。」
「……ちよこ、飲みすぎだよ。」
「だってだって!!ひどいんだよー。」
「言ってみな。」
「今回もさーぁ、その友達と俺とどっちが大切なんだよ。って言われたんらよー?ちがくない?友達と彼氏ってさぁ、ちがーくない?どっちも大切だっつーんだよ。ばぁーかぁ。」
「はぁ、この酔っ払い。早く寝れば?」
「つめたいー!!慰めてよぉー!!!!」
今回は結構上手くいっていたのにやっぱりだめだったらしい。ちよこがあまりに頻繁に僕の話をするもんだから僕と自分とどっちが大事か、なんて聞いてどっちもだ。とちよこが答えたら喧嘩になってお別れに至る。彼氏の前で僕の話をしすぎてしまうちよこにも確かに非はあるかもしれないが、その男もその男だ。まるで私と仕事どっちが大事なのよ!と怒るヒステリーな妻みたいだ。そんなもの答えはどちらも大事に決まってる。
そもそもその二つを同じ土俵に立たせること自体が間違っているのだ。2つは全く別のものであり、どちらも必要不可欠なものだ。妻を選んで仕事を捨てればたちまちお金に困って大切な妻さえ失う。仕事を選べば生涯伴侶として選ぶまでに心を満たしてくれたものを捨てることになりお金はあっても心が埋まらない人生を送ることになる。つまりはどちらも大切なのだ。
そもそも、何かと自分を並べて聞くこと自体間違ってる。自分を選んで欲しいと思ってることが丸分かりだ。出題者によって初めから答えは一つに絞られているようなものだ。
そんな愛ならいらない。僕は、絶対的な愛がほしい。
「こんなクズに慰めてもらうとか屈辱じゃない?」
「一松は、いい奴だよ。」
「……馬鹿か。お前の方がいい奴だろ。」
「私なんて、ろくでなしだよ。ふられてんのにまた他を好きになるし。一松に頼ってばっか。」
「頼ればいいよ。僕は、ずっとちよこのそばに居るし。……ずっと、居るから。」
「……っ、うっ、いちっ、まつ……」
「ん、泣いていいよ。」
僕に大人しく抱きしめられて涙を流すちよこの頭を優しく撫でる。あぁ、ほんと、今顔見られてなくて良かったよ。とてつもなく悪い顔してるだろうから。
まるで催眠をかけるかのようにそっとちよこの頭を撫でる。“早く僕を見て。好きになって。”
断れないちよこをいいことに、何度かわざとデートの日に僕と遊ぶ約束をこぎつけた。彼氏の頭に僕を嫌な奴だと植え付けて、そしてちよこに僕のことをいっぱい話してもらう。普通なら気にならない彼女の友達、という話題も僕が嫌な奴だと認識されてるおかげですごいストレスになってくれていただろう。
友達なんて外面の話だ、ほんとは僕は彼女を狙う立派な獣。だけど、下手に牙を剥いて嫌われたり怖がられたりするのが怖いから、安全なところにいて彼女から僕に寄ってくるまで待っている。いや、僕のところに寄ってくるしかない状況を作りあげている。
疲れきって僕の胸で眠る彼女はあまりに無防備だった。白い肌も、細くて長くて儚い手足も、豊満なその胸も、綺麗な唇も。……いや、何より何も知らないその純粋無垢な表情が、僕の理性を揺さぶりぞくぞくさせる。
……早く、汚したいって。
「こんな、クズ野郎に気に入られて可哀想だね。……幸せになりたいなら、早く堕ちてきなよ。」
僕以外と付き合ったって、どうせまた別れる運命なんだから。
(ほんと、可哀想だね。僕みたいな悪い男に引っかかってさ。)
*朽ちる音はまだ聞こえない*
崩れて、堕ちて、縋って、ねぇ、尊い人よ。