▼真紅のゆりかごで眠る
君の隣を歩くのはボクだけでいい。
*
最近できたばかりのおしゃれなカフェにボクとちよこちゃんは来ていた。雰囲気も落ち着いててすごくいいし、流れている音楽もおしゃれ。先ほど頼んで出てきた真っ赤ないちごののったパフェもなかなか美味しそうだ。ちよこちゃんの頼んだスフレチーズケーキも美味しそうだから後で一口貰おう。……こんなにいい空間なのに、ちよこちゃんは浮かない顔をしていた。悲しそう、というか悩んでる感じ。
「……ちよこちゃん、何かあったんだよね?ボクで良かったら話して。何でも聞くよ?」
「トッティ……」
「ちよこちゃん、誤魔化すのはだめ。」
普段ボクのことをトド松くんと呼ぶちよこちゃんは何か誤魔化したいときとかはぐらかしたいときはボクを少しふざけてトッティと呼ぶ。ボクはそれはちよこちゃんが助けてって言ってる合図だって知ってるから絶対ちよこちゃんと合わした目を逸らさない。ボクがそうしたらちよこちゃんは少し涙目になりながら決まって気持ちをうち明かしてくれるのだ。
「……でも、私いつもトド松くんに迷惑かけてばっかりだし……」
「ボクが聞きたいの!いいから話して。変に気を遣わなくていい。」
「じゃあ、お願いします。……あのね、私浮気されてるかもしれないの。」
「浮気?」
ちよこちゃんの口からは思ってもみない言葉が出た。この前まで仲がいいって言ってたから少しびっくりだ。詳細を聞くと、ちよこちゃんは大きな瞳にじわじわと涙をためながら少しずつ言葉をこぼしてくれた。
「うーん、女の人と居たんだ……。でもさ、もしかしたらお姉さんとか妹かもしれないんじゃない?」
「んーん。それはないよ。私彼の家族知ってるもん。」
「友達……とかは?ボクとちよこちゃんが今こうして一緒に居ることだって彼氏さんからしたら浮気に見られるかもしれなくない?」
「うん……。」
フォローするようにボクは言葉を重ねるけど、やっぱり彼女は納得出来ないらしく、ぼやぼやとした返事を返した。口に運んだいちごパフェのクリームは、舌の上でとろりと溶ける。甘い甘いその味は、今の空気に不釣り合いだ。
「あ、ほら、ちよこちゃん。向かいのお店見てみなよ!」
「へ……?あ、テレビでしてたパンケーキのお店。」
「あそこで彼氏とデートしたら?ほら、一回話し合わないと始まらないでしょ?あ、ほら、カップル1組今入ったよ!やっぱり人気なんだねぇ〜!」
「……」
「ちよこちゃん?」
ちよこちゃんは、突然スマホとガラス越しに見えるカップルとを交互に見てポロリと涙を零した。
「え?!……ちよこちゃんごめんそれ、見せて。」
「あ、トド松く……」
「なんなのこれ……」
開かれていたのはLINEのトーク画面。ちよこちゃんの彼氏とのトーク画面だったんだけど、新しく来ていたメッセージはどう考えても彼氏が打ったとは思えない内容だった。
彼と別れてくれ、という内容と添付されていた少し地味めの男の頬に綺麗な女性がキスしている写真。そしてそれはさっき腕を絡めながらパンケーキのお店に入っていったカップルとまさしく一致していた。
ポタポタと机に涙を落とすちよこちゃん。それはとても痛々しかった。なんにも言葉が出なくて語彙力がない自分を恨む。そんな中出てきた言葉はあまりに突拍子もない言葉だった。
「ちよこちゃん!!浮気する彼氏となんか別れたらいいんだよ!」
咄嗟に思いついた言葉を口に出していいものかと考える暇もなく思っていたより勢い良く言葉は出ていた。びっくりして、泣いていたちよこちゃんが涙を止めて目をまんまるにするほどだ。
「ちよこちゃん、振っちゃおうよそんな男。寂しいかもしれないし、躊躇われちゃうかもしれないけど、ちよこちゃんにはボクが居るじゃん!!ちよこちゃんが望んだらボクはずーっとそばにいるよ?」
もう、自分で何を言ってるかも分かんないし、ぐっちゃぐちゃだと思う。ちよこちゃんは泣くことも忘れて唖然としていた。
「あ、ありがとう。」
「ごめん、ね。こんなこといきなり言っちゃって……意味わからないよね……困っちゃうよね。」
元気にしたかっただけなのに、ボクは馬鹿だなぁ。女の子慣れしてるはずなのに言葉もうまく選べない。あぁ、少し気まずい。
「ありがとね。すっごい元気出た!」
声は少し掠れていたけど、ボクが大好きな笑顔でくしゃっとちよこちゃんは笑った。
***
「トド松くん、今日はありがとう。こんなの絶対お互いに良くないし別れることにするね。……だから、また遊んで?」
「うん、いつでもボクを呼んで。どこにいても駆けつけるよぉー!」
「ふふ、もう調子いいんだから。」
「えへへ〜!」
カフェを出て、ありがとうと手を振り帰っていくちよこちゃんの背中をボクも全力で手を振りながら見送った。
可愛らしいちよこちゃんを見ながらちょうど一週間前、同じ店での昼下がりをボクは思い出した。
『この男、なんだけどさー。』
『ふぅーん。トッティ、それあたしに得はあるの?』
『骨抜きにでもして財布にしていいよ。終わったらポイしちゃって?』
『あはは、なるほどね。了解了解〜!多分この程度ならすぐに落ちちゃうよ。』
『よろしくね?』
『トッティも頑張ってねぇ〜。』
女友達多くて助かっちゃった。
それにしてもこんなに早く関係が崩れちゃうなんてね。笑える。
ボクがこれを仕組んでいたとしても結果的にあの男が浮気を選んだんだし、事実は事実。あぁ、早く別れたらいいのに。
今度は、誰のものにもならないで、ボクだけのそばにいて。ボクがいないともう生きていられないようになってよ。
*真紅のゆりかごで眠る*
その涙をみても、ボクは罪悪感なんて感じなかった。