▼泣いた娘と指輪
私が、いや、私達がおかしいことくらいずっと前から知っていた。互いに依存しすぎていることも、それがどれだけお互いを苦しめているのかも。それでもそれをやめなかったのは私が彼を失うことが怖かったから。彼が離れてしまう事が怖かったから。
おそ松くんに狂ってると言われたあの日、私は正直ヒヤヒヤした。彼は異常に鋭いから、だから見抜かれてしまっているのかと思った。
私が"狂ったフリ"をしてること。
でも、気づいてないみたいで……いや、カラ松にきっと強く言われたからかな。それ以降は何も言ってこなくなった。ただ、憐れむような瞳で私たちをみつめるのだ。
私が彼をここまで繋ぎ止めたいと思いはじめたのは、花の精であるブス女の1件があってからだった。
俺がしてあげないと、
俺が見ててあげないと、
俺が呼び出したんだから、
そういってあの女の思うままに動く彼。
「俺の1番はもちろんハニーだけだぜ。」
そう言ってくれたけど、あの女につきっきりの彼に腹が立って仕方なくなった。
ハーゲンを1時間以内に食べないと死ぬ?
じゃあ死ねばいいじゃない。
抑えきれなくなった嫉妬心は大きく大きく膨らんで、真っ黒なモンスターになった。嫉妬なんて可愛いもんじゃない。殺意なんて生半可なもんじゃない。もっともっと複雑で醜くて黒いもの。
*
お花は結構脆かった。そう、命は脆く儚いのよ。
引きちぎったらそれで終わり。生きようと高く高く伸びた木々も、人間にあっという間に切り倒される。どれだけ気丈に生きようとしたって、結局壊れれば皆同じ。
思うがままに踏み倒してすっきり、満たされて家に帰ると、カラ松は泣いていた。
「どうしてだ、1時間以内だったはずなのに」
「俺のせいなのか」
「すまない」
「すまない、」
涙がぽろぽろと彼から溢れ出る。あなたが泣いてたら私も悲しいよ。兄弟たちもカラ松を心配そうにみつめる。そんな中私は彼に近づき、ぎゅっと抱きしめた。
「カラ松、泣かなくていいよ。カラ松は悪くないもん。お花はね、いつかは枯れちゃうんだから。それに、あんな道端に生えてるのよ?誰かに間違って踏まれちゃうこともあるよ。」
もともと涙脆い彼は私に縋り付いてわんわん泣いた。弟たちも彼に駆け寄って背中をさすったり励ましたりした。そんな中おそ松くんだけがその場に立ち尽くして私を化け物をみるような目で見ていた。
私が、自身の唇に人差し指をそっと置いた時、おそ松くんはすべてを悟り顔を蒼くした。ヒュ、と鳴ったおそ松くんの喉。彼はどれだけ恐ろしい怪物を見たのだろうか。
・
今となっては、あれもいい思い出。
彼の瞳は私だけを映している。私も彼しか見えない。世界の全てが滅びたって、彼が居ればそれでいい。それでいいのに。
「……ハニー?!どうして泣いてるんだ?痛いのか?苦しいのか?!」
「んーん、違うよ。幸せなだけ。」
どうしようもない虚無感が胸を締め付ける。これはほんとに幸せなのか。これはほんとに正解なのか。私の涙を必死に拭ってくれるカラ松。こんなに優しい人が、私みたいなひとでなしに捕まって可哀想よ。
本当は解放してあげたい。でも、彼の優しさを知ってしまえば、もうそれを求めずにはいられなくなる。
ごめんね、おそ松くん。
大事な大事な弟をこんな風にして。
「ハニー、泣き止んでくれ。俺から最高のプレゼントがあるんだ。」
嗚呼。
「ちよこ、結婚しよう。」
「……うん、よろしくお願いします。」
ごめんね。
なにひとつ濁りのない指輪。それは汚い私を嘲笑うかのようで。
「綺麗だよ、似合ってる。」
「……嬉しい。」
やっぱり涙は止まらなかった。
この指輪がまた、私たちを縛る。一生離れられない鎖。来るところまで来たのね。
「大好き。」
彼の形のいい唇をそっとなぞって口づけた。
*泣いた娘と指輪*
あなたのその恍惚とした表情に、今日も私は溺れるの