ハートを射抜く弾丸
今の、心臓に刺さった。
【エース】
「エース、ちゅーしない?」「…は」「ダメ?」「お前、今の場所分かってんのか」「街の大通り」「そうだな。ダメに決まってんだろ」「ケチ〜」キスの誘いを断られた彼女は、不満を漏らしながら前に向き直った。二人きりの時は岩よりガードが固いくせに、こういう場所に来ると途端に緩くなる。…というよりかは、おれをからかっているだけかもしれねェが。「人、多いねぇ」「はぐれんなよ」「手繋ごうよ。それもだめ?」「それは、まァ、いいけどよ」「ふふ、やった!」こういう時ばっかり積極的なこいつに、文句の一つでも言ってやりてェ気分だったのに、心底嬉しそうにおれの手を握る姿を見ると、たったそれだけで絆されちまうんだからおれもおれだ。…とは言っても、やられっぱなしはなんか気に食わねェ。彼女と軽く重ねただけの手を一度解く。いきなり離れた手に驚いて、こっちを見た彼女を横目に、今度はするりと指を絡ませた。顔を真っ赤にしたこいつは、焦って咄嗟に手を解こうとするが、絶対離してなんかやんねェ。握ったままの手を、おれの口元まで導いて、慌てふためくこいつの手の甲に口づける。肩を跳ねさせた彼女は、驚いたように目を見開いて、視線をしばらく漂わせた後、少し恥ずかしそうに笑った。「ねぇ、やっぱりちゅーして欲しいかも。」「ここでか?」「…人が居ないところ」照れを隠すように笑うこいつが愛しくて胸が痛い。はにかむお前が何よりまぶしい。
【サボ】
「サーボくん」「なんだよ」「なんだよってなに?」椅子に座るおれの膝の上に、向かい合わせになるようにして股がっている彼女は、おれの態度にぶつぶつと不満をこぼす。「ねぇ、分かってる?誘惑してるんだけど」「残念ながら、あからさますぎて色気がねェんだよな」「は?」「誘惑になってねェってこと」「誘惑になってない?嘘でしょ…」彼女は雷にでも打たれたような顔をした後、ワナワナと唇を震わせる。コアラってば嘘ばっかり!と一言こぼして、おれの胸にポスンと頭を預けた。また女子会とやらに影響されたらしい。女子会の後は必ず何か仕掛けてくるのが最近のお決まりだった。大方、コアラは素直に実践するこいつと、付き合わされるおれで楽しんでいるんだろう。自分で遊ばれていると微塵も思ってない彼女がなんだか不憫で、優しく頭を撫でてやると、無意識なのか甘えるように手に頭をすり寄せる。彼女の柔らかな髪から、ほのかにシャンプーの香りがして、体温がじわじわ上昇してくるのが自分でも分かった。「…サボくん、どこ触ってるの?」「ん?」「とぼけないで!色気ないって言ったくせに!ちょ、今は誘惑してない!」「そんなこと言ったか?覚えてねェな」「いや、本当に…!」腰に手を這わせると、緊張したようにビクリと体を震わせる。誘惑とか、そんな艶やかな雰囲気より、そうやってコロコロ表情変えてる方が、おれの胸にはよっぽどくる。…まァ、面白れェし、もうちょっとからかってやるか。おれは、飾らないお前の方がいいよ。
【サンジ】
「紅茶をどうぞ、プリンセス」「わぁ!ありがとうサンジくん」彼女は本に向けていた視線を上げると、目尻を下げて柔和な笑みを浮かべる。彼女に降り注ぐ太陽の光は、滑らかな髪に反射して天使の輪のように輝く。何となく感じた危うさに、思わず彼女の手を取った。「どうしたの?」「天使がいたんだ。捕まえとかないと飛んで行っちいまいそうだなって」「飛んでいく翼なんてないよ」「手を離したら生えてくるかもしれねェ」「なぁに、それ」「…レディ、このまま手を繋いでいても?」彼女と手を繋いでいたいという、ほんの少しの下心。バレないように必死に繕うおれの瞳を、彼女はじっと見つめる。「ダメ」1拍置いてそう言うと、おれの手を払って、薄桃色の綺麗な唇をゆっくりと開いた。「私だけ特別に言ってるんじゃないから、ダメ。」「おれの日頃の行いのせいかな」「そうね。私、欲張りなの。特別じゃないと満足できないし…手を繋ぐ口実なら、もっと上手なのにして」「…カッコ悪ィな。バレてたのか。」居心地の悪そうなおれを見て、彼女は目を瞬かせる。肩の力を少し抜くと、彼女がさっき払いのけたおれの手をとって、優しく握った。「私だけの、サンジくんになって頂戴。そしたらそんな下手な口実でも、ずっと手を繋いであげるわ」彼女はニッコリと笑うと、またおれの手を離して、冷めかけた紅茶を上品に啜る。視線が彼女に吸い寄せられる。あぁいっそ、君だけのおれになってしまいたい。強気な君も、とても素敵だ。
ショートケーキ行進曲
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