美しい睫毛が瞬く前に、
少しレトロで雰囲気のいい喫茶店。スタバァのようなお店もいいけど私はこんな感じのお店の方が割と好きだ。最近はレトロな感じのお店が少し増えていて嬉しい。トド松くんも私がこんな雰囲気のお店が好きだと知ってくれているのか、よく紹介してくれる。思い上がっているかもしれないけど、私の好みを知ってくれているということがなんだかとても嬉しくてこそばゆかった。
「いちごたっぷりデラックスパフェ?!」
「いちごたっぷりのアイスもあるよー」
「うわぁっ!!!すごいっ!!」
トド松くんは興奮気味の私に優しい瞳を向けてくれている。ほわほわしててあったかい。すごく微笑ましそうに見てくれているのだ。急に恥ずかしくなってきたけど、いちご尽くしのこの状況。それどころではないのだ。
「と、トド松くん!このパフェとパンケーキどっちがいいと思う……?」
沢山いちごのデザートがある中、私が絞ったのは最初に目をつけたパフェと、いちごが練りこんであるパンケーキに沢山いちごの果肉がクリームと共に添えられているパンケーキセット。どちらも買うお腹もお金も持ちあわせていない上に選べるほど決断力もない私はトド松くんに申し訳ないが聞く事にした。トド松くんはうーん、とすこし考えた後にっこりと微笑んでメニュー表を指さした。
「じゃあ、ちよこちゃんはパフェ。僕はパンケーキ。半分こしよ?」
「や、え、まって、そんなつもりじゃなくて、トド松くんそんなこと無理矢理しないでいいよ、好きなの食べて!」
「うん、僕パンケーキ食べたいから、ね?」
「でも、」
「ちよこちゃん、飲み物いちごのスムージーだよね!」
「あ、うん、あのっ……」
「店員さん、すみませーん!」
「ちょっ……」
ニコニコと笑いながら定員さんを呼ぶトド松くんは案外強引で、私が止める声をゆらりとかわして注文を済ませてしまった。
「トド松くんって、案外強引なんだね……」
「まぁ、六つ子の末っ子だしね!」
へへ、と笑ったトド松くんにきゅんと胸が高鳴る。だめだ、なんでも可愛く思えてしまう。甘え上手なトド松くんの笑顔にはどうにも勝てない。どれだけ構えてても彼の笑顔を見てしまえば無条件で胸がきゅんきゅんする。本当に厄介で、どうしようもない感情だ。今もトクントクンと鳴る心臓をそっとおさえた。
*
「お待たせしました。いちごたっぷりデラックスパフェ、いちごクリームパンケーキセット、いちごのスムージー、カフェオレ です。以上でよろしいでしょうか?」
「ありがとうございます!」
「ではごゆっくりお過ごしください。」
長ったらしい名前と共にズラリと並べられたいちごのデザート。ここは天国だろうか。
「い、いただきます!」
パフェ用の少し長めのスプーンにいっぱいのいちごと生クリームをすくって口に運ぶ。甘酸っぱさが口いっぱいに広がって本当にほっぺが落ちてしまいそうだ。いちごだらけのスイーツが食べられる上にトド松くんとこんなところに来れるなんて私は一生分の運を使い果たしたかもしれない。モキュモキュと頬張って食べていると向かいの席からポロンと声が降ってきた。
「ちよこちゃん。」
声の正体はもちろんトド松くん。いちごに夢中で何も考えてなかったけどトド松くんが今目の前にいるのだ。これは絶対食意地張ってる女だと思われただろう。お上品という言葉を覚え直してきたいくらいの気持ちだ。
恐る恐る顔を上げると果肉がいっぱい乗ったパンケーキが私の視界をでかでかと占領していた。イマイチ状況が読み込めずフリーズしていると、痺れを切らしたトド松くんが眉間にきゅっとシワを寄せてむぅっとした。
「ちよこちゃん、早く食べて。半分こって言ったでしょ?」
「え?!あ、そう、だけど……」
半分こってこういうこと?!あーんってするの?!ダメ、死んじゃう!!ときめきすぎて心臓がなんかどうにかなって死んじゃう!!幸せすぎる状況ではあるが、このままでは本当に一生分の運を使い果たしてしまいそうで必死に回避方法を考える。......が、考える間もなく私は自然と口を開いてしまっていた。美味しそうないちご、その先にはにっこりスマイルのトド松くん眼福で口を開けずには居られなかった。
「んん〜!おいしい!」
ぽん、とほっぺをおさえてそう言えば、クスクスとトド松くんは可笑しそうにした。
「トド松くん?」
「ふふ、ちよこちゃんほんとに美味しそうに食べるね。幸せそうだもん。」
「そう、かな。食意地張ってるみたいで恥ずかしいよ……」
「そんなこと無いよ。一緒に食べてて楽しいし嬉しそうに食べてくれたら紹介した甲斐があるし!」
そう言ってトド松くんはまた私にパンケーキをさしたフォークを向けた。緊急しすぎて味がよく分からなかったなんて口が裂けても言えないや。
「トド松くん、ほんとにありがとう!お会計行こう!」
「あ、それならもう済ましたから大丈夫だよ。」
「え、まって、じゃあ私の分のお金を……」
「僕の奢り!今日はそのつもりだったから!」
「でも、」
「今日は僕から誘ったし、ちよこちゃんにはつきあってもらったから、ね?」
だからいいよ。そう言って歩き始めたトド松くんの背を追いかける。
「ごめんね、トド松くん今月金欠なのに……」
「ちょ!!!!なにそれ、なんで!!!」
「昨日、教室でボヤいてたから……」
「全然大丈夫!金欠とかじゃないよ!」
「そう?ほんとに?」
もう最低、カッコつかないなぁ!くしゃりと髪を掴んでそういったトド松くんはなんだかすごく可愛かった。
車道側をさりげなく歩いてくれたり、人混みに入ったらはぐれないように腕を引いてくれたり。そんなさり気ない女の子あつかいに私はどうしようもなくドキドキしてしまう。
隣を歩くトド松くんと肩が触れそう。彼は私よりも背が高くて今まで女の子みたいにかわいいって思ってたのが嘘みたいに男らしかった。
「トド松くん、男の子なんだね。」
「え、うん、男だよ?!」
えぇー、今までなんだと思われてたの、困るよ〜。トド松くんはそう言って頭をポリポリと掻くと、1歩ぴょんと前に出て振り返って私をまっすぐ見つめた。
「じゃあ、これからは男の子だと思って意識して。」
その声は私にまっすぐ向かって伸びてトン、と心臓に突き刺さる。顔がぶわっと紅くなるのがわかるのに彼から目が離せない。もう、かわいいなんて言えない。彼は男の子なのだ。私を導いてくれるしっかりとした手も、少し大人びた屈託のない笑顔も全部男の子のトド松くんのものだったんだ。
トド松くんの瞳はその日の真っ赤な夕日なんかよりずっとずっとキラキラしてて綺麗だった。
その美しい睫毛が瞬く前に宝石みたいなあなたの瞳を私が奪うことはできないかな。
ALICE+