可愛くなりたい理由は君にある



たまたま街中でナンパされてるところを助けてもらった。出会いはそんな単純なものだった。


「ごめんね、トド松くん。待った?」
「ボクも今ついたところ!ほら、行こ!」


トド松くんはすごくおしゃれだ。男の子なのにピンクの小物がすごく似合っている。トド松くんは出会った時からおしゃれだった。
その日は遊びをドタキャンされたらしくて暇を持て余している時に私のナンパ現場に遭遇したらしい。偶然と言えば偶然。でもそれは私にとっては必然とも言えた。まぁ所謂、一目惚れというものをしたのだ。
トド松くんは女の子慣れしているのか、「LINE交換しない?」と笑顔でスマホを出した。もちろん私には断る理由なんてないから即座にOKサインを出した。私はそんなに男の子慣れしてない方なのでトド松くんが連絡先交換を切り出してくれて寧ろありがたいくらいだった。


LINEで話していくうちにトド松くんという人がどんな人なのか大体知れた気がした。彼の上にはなんと5人ものお兄さんがいてしかも彼を合わせて六つ子らしい。信じがたい話だがこの前パーカーの色が違うトド松くん似の人を複数人見かけたからきっと嘘とかじゃない。もっとも、トド松くんが嘘を言う人ではないことを知っている。

このデートに先駆けてトド松くんは「僕、ニートなんだ。」って打ち明けてくれた。驚きはしたもののだからといって幻滅する理由にもならないので「そんなので嫌いになんてならないよ。」って返したらありがとう。と一言だけ返ってきた。
それに私は彼がスタバァでバイトしてたのも何回か見かけたことがある。定職にはついてないけどバイトをしたりしていることは事実だ。それを彼に伝えたら「ちよこちゃんはほんとに優しいね。」ってすぐ返事がきた。
返事がすぐに返ってくるところがすごくマメで女子っぽいなぁ。と思った事は私だけの秘密だ。


そんなこんなで私達はデートすることになった。



***



とあるカフェ。私もここは地元のはずなのにこんなおしゃれなところがあるなんて全然知らなかった。しかも私の大好物がこんなに美味しいなんて。今までの人生損した気分だ。


「これ、私の大好物なんだ!こんなに美味しいお店があるなんて知らなかった!」
「ん?あぁー、ボクも調べて初めて知ったよー!」
「ん?」
「ん?……あ!!なんでもない!!違う……くなくて……んーっと……」
「私がこれ好きだって知って調べてくれたの?」
「……うん。ほんと、なんかかっこ悪い。もっとスマートにするつもりだったのに……。」
「ふふ、嬉しい。」


かぁ、と顔を赤く染めるトド松くん。私のために、って考えるだけで嬉しい。かっこ悪いとトド松くんは行ったけど、ここまでエスコートしてくれたトド松くんは誰よりもかっこよく見えた。


「ちよこちゃん、今日ちょっと雰囲気違うね。」
「え、うん。ちょっとだけメイクしたから……。変?」
「変じゃない!その、すごい可愛いよ。」
「ありがとう……。」


今日まで会話が尽きないように何個も内容を考えてきたのに彼を前にすると真っ白になって思うように話せない。大好物も胸につかえて喉をなかなか通ってくれない。伏せていた目を上に上げると、彼の純粋でつぶらな瞳と目が合った。
合った目から彼のあたたさが伝わってきて、勇気なんてなかった私にたくさん勇気を注いでくれてる気がした。


「私、ね。今日はいつもより2時間早起きしたんだ。メイクも何回もチェックして服も新しく買ったんだ。」
「うん。」
「ちょっとでも可愛いって思って欲しくていつもよりずっとずっと背伸びしたの。……なんでか、わかる?」
「それって……」


おしゃれなあなたの隣に立ちたい。
女の子より女の子なあなたの隣に立ちたい。

いつか胸を張って好きですって言えるように。



かわいくなりたい理由は君にある



あなたにふさわしい女の子になりたいの。


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title by.魔女
20160322
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