知らぬ間に逆転した背丈



私には幼馴染みがいる。それも六つ子だ。
でも、その中で1番仲がいいのは十四松だった。十四松は小さい時は泣き虫で、いつも私の後ろに隠れていた。十四松より大きくてメンタル的にも強かった私はいつも十四松を守っていた。
十四松が悲しそうな顔をすれば『大丈夫だよ。』って頭を撫でてやる。そしたら必ずにっこり笑うのだ。いつの間にか彼の頭を撫でることが癖みたいになっていた。


「よーしよしよし十四松。」
「わんわん!」
「ふふ、可愛いなぁ。」


十四松はいつの間にか大きくなっちゃって私よりずっとずっと背が高くなっていた。こうやって犬みたいにしゃがんでもらわないと思いっきり撫でられないくらいにまで身長差はひらいていた。十四松の頭をわしゃわしゃと撫でれば嬉しそうに笑う。見た目とか背丈は変わっても、その笑顔は昔と全然変わらなかった。

「あ、そーだ。十四松お茶飲まない?美味しいケーキがあるんだけど!」
「ケーキ?!ケーキすか?!」
「そうだよー」
「やったやった!!」

ケーキケーキと嬉しそうに跳ね回る十四松。子供みたいでほんと変わってないなぁと微笑ましくも可笑しかった。
松野家には結構な頻度でお邪魔しているためキッチン事情は知り尽くしていた。松代さんにも将来はこのキッチンを使ってもらわなきゃだからね!うちのニートたちをもらってあげて!と様々なことを教えこまれた。私が苦笑いしたのは言うまでもないだろう。

紅茶の葉は確かこの戸棚の一番上だったはず。うちは紅茶というよりかは緑茶なのよねーと確か松代さんは言っていた。そのため、滅多に飲まない紅茶は棚の上の方に位置しているのだ。まぁ、すごく説明しているけど要するに届かないのだ。屈辱的だが届かないのだ。

「ちくしょう……もうちょい……」

全身つりそうな感じだが私の中のなにかが椅子を使うことを拒んでいる。ぐぅ……とひたすら格闘していると後ろからぱっと手が伸びて私の目標のモノが消えた。ぱっと後ろを振り向けば十四松がニコニコしながらお茶の葉を持っていた。

「ちよこちゃん、あぶないっすよー。」

十四松の指さす先には硝子食器。私が必死になるあまり、掴んでいた棚は硝子食器が入っている棚だった。あまり無理をしすぎていたらもしかしたら食器が壊れていたかもしれない。

「ご、ごめん。ありがとう……。」
「いーよいーよ!ちよこちゃんが怪我しなくてよかった!」

はい、と私に紅茶の葉が入った容器を渡す十四松。受け取る時に触れた指先がなんだか少し熱かった。背丈が伸びた十四松の手は昔見た小さくて細い指なんかじゃなくて、もっともっと太くてゴツゴツしてて野球の素振りの時にできたであろうマメがいっぱいあった。

「十四松は変わったね、すごく大きくなって。泣かなくなったしこんなに紳士になった。」

笑って十四松を見上げると、彼は少し不思議そうにダボダボの袖で口元を覆っていた。きゅ、と猫目になって少し考える動作をした後、にぱっと笑って元気に口を開いた。

「ちよこちゃんも変わったよ、すっごいすっごい可愛くなったし料理もうまいし女の子っぽい!!……でもね、優しいところは変わってない!おれ、ちよこちゃんの優しいところスッゲーすき!」

変わってない所がすき、なんて。ちょっとだけ泣きそうになった。昔と変わったところなんて沢山ある。それが嬉しいようで寂しかった。私とトト子くらいしか見分けることができなかった六つ子にも、色ができて個性ができてどんどん変わっていった。私はそれが妙に寂しかったのだ。それにもかかわらずそれに順応して行くように自分も昔とはずいぶん変わった。昔がフラッシュバックする度に、悲しくて辛い気持ちになるのだ。
だから、変わってないよって彼の言葉一つでこんなにも涙ぐんでしまいそうになる。

「ちよこちゃん、どうしたの?どっか痛い?」
「んーん、痛くないよ。大丈夫。」

まゆを下げて心配そうな顔をしながら私をのぞき込む十四松。いつも心配する側だった私が、十四松に心配かけちゃうなんて幼い頃の私だったら、想像すらできなかっただろうなぁ。と思うと少し可笑しくなってしまった。

「ふふ、ほんとに大丈夫だよ。だからさ、十四松そんな心配そうな顔しないで笑ってよ。私、昔から十四松の笑顔好きなの。」

十四松は、若干照れた様子を見せたあと頬を少し赤くしながら太陽みたいな笑顔を見せた。私はやっぱりこのキラキラした笑顔が大好きだ。胸にそっと手を当てると、ぽかぽかとあたたかくなっているような気がした。

「十四松、早くケーキ食べよっか!」
「ういっす!」

今日淹れたお茶は、いつもより何倍も美味しいような気がした。



知らぬ間に逆転した背丈



このあと急に「一生ちよこちゃんの隣にいたいな」って告白通り越してプロポーズした彼に、彼らしいなぁ。と涙ながらに頷いた。


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20160714

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