光輝



視線の少し下にある、彼女の頭を撫でようとした。揺らめく髪に誘われるように伸ばした手は、触れる直前でピタリと止まる。
こんなにも触れたいのに、不思議と触れることを躊躇ってしまった行き場のない手は、彼女の髪を、少しすくって持ち上げた。指の間から、さらさらとこぼれて逃げていきそうな髪を引き留めて、そっと毛先をいじる。
「控えめなのね」
「え?」
「毛先だけだなんて、控え目ね。撫でてくれないんだ」
「一等愛しいレディに触れるんだ。……臆病にもなるさ」
「私、割れ物みたいに思われてるのかしら?」
「……まさか」
「……サンジくん、何に怯えてるの?」
彼女の射抜くような視線がおれに向けられる。濁りのない瞳に見つめられて、いつもなら浮かれちまうはずなのに、今は少し居心地が悪い。
「そうだなァ。色々あるが、強いて言えば……君の美しさかな」
「ごまかしたつもり?」
「本当だよ。……君は、おれには眩しすぎる」
「……私、サンジくんの誰よりも優しくて思いやりのあるところは好きだけど。そういうところは、嫌いだわ」
眉間にシワを寄せる彼女は、おれの発言が不服だと言わんばかりの表情だった。

彼女が何より愛おしい。柔い肌や、波打つ滑らかな髪にだって、本当は躊躇いなく触れて、撫でたい。
……でも、おれが触れることで、彼女の眩むほどの光が、鈍くなるかもしれねェと考えると、それが何より恐ろしいと感じる。
何に怯えてるのか、という彼女の言葉を反芻する。
彼女の美しさを、おれが損なわせることが怖い。かと言って、彼女がおれから離れていくことを望んでいるわけでもない。そう、彼女に置いていかれることも怖い。
大事なものを、籠に閉じ込めることも、いっそ手放すことも出来ねェのが怖い。失うことも、壊れてしまうかもなんて馬鹿らしい杞憂をすることも、らしくねェ自分も怖い。

触れたままの、彼女の髪束をまた、少しだけいじる。顔を顰めている彼女の表情が、少しでも和らぐようにと、その柔らかな髪の先にキスを落とした。
伏せられていた彼女の睫毛が、ゆっくりと持ち上げられる。
「……ねぇ」
「なんだい?」
「嫌いじゃ、ないからね。誰より優しくて、格好よくて、臆病なサンジくんのこと、大好きだから」
心配しなくても、そばにいるからね。そう言って彼女は緩やかに微笑む。
澄み切ったその笑みに、おれが何度も救われているってことに、君は果たして気づいているのだろうか。
「……やっぱり、君は綺麗だ」
「綺麗なのは、サンジくんだよ」
眩しいものを見るように、彼女は目を細めた。
ALICE+