桃色ハプニング!



ラッキースケベ注意です




草木を強く揺らすような風が吹いた。
線が細くて、華奢な彼女が風に煽られてしまわないか心配で、彼女の様子を確認しようとした。下心とかは決してなく、ただ本当にそれだけだった。断じて無かった、本当に。
……振り返ると、そこには桃色の楽園が広がっていた。

一瞬見えた桃色のそれには、可愛らしいレースの装飾が施してあった……ような気がする。見ちゃいけねェと分かっていても、一瞬たりとも見逃さないように目は意思を持ったかのように瞬き一つしようとしなかったし、顔を逸らそうにも、体は言うことを聞かず全く動かなかった。
いけないと思う気持ちとは裏腹に、おれの体はしっかりと彼女のあられもない姿を脳裏に焼き付けようとしていたのである。
キュートで可憐でお花のようにふわふわした彼女にぴったりの、可愛い下着だったな……じゃねェ!!何を考えてるんだおれのバカ!
軽くトリップしていた意識をハッと戻した時には、顔を真っ赤に染めた彼女の手がおれの頬に触れる寸前だった。触れると言ってもそんな雰囲気の甘いもんじゃない。バチン!と大きな音をたてて、彼女の強烈な張り手がおれの頬に食らわされた訳だ。冷静になるには丁度良かった。
ただ、彼女の手が心配だ。細くて小さくて綺麗な手。人を叩くことに慣れてないその手は、きっとヒリヒリして痛いに違いねェ。
冷やした方が、いいんじゃないだろうか。でも、今おれが彼女に触れるのは、ちょっと。おれの心境的にも、彼女の心境的にも問題があるよなァ。

どうしたものかとぐるぐる思考を巡らせる。妙案が思いつく前に、頬を赤く染めてプルプルと震えていた彼女がキッと眼光を鋭くして叫んだ。
「さ、サンジくんのえっち!!」
「え、えっち……」
赤面、涙目、恥じらい。彼女の1つ1つがツボで、おれの胸をブチ抜いていく。鋭い眼光とは言っても、おれから見たら小動物がプンプンと怒ってるくらいにしか見えなくて可愛いことこの上ない。
本当に可愛いな、ちょっとだけ触れてもいいだろうか。……いやいやダメだ、紳士なおれであれ。これ以上彼女に無様な姿を見せるな、頑張れおれ。
「その、本当にごめん。見るつもりはなくて」
「じゃあ恥ずかしいから記憶全部消して!」
「えっ」
「パンツ、見たでしょ!全部忘れて!」
「えェーっと、それはちょっと……」
忘れろといっても忘れられる訳がねぇ。気になってた女の子の下着を見てドキドキしない男なんていねェだろ。
今だって、小さな風にスカートの裾が少し揺れるだけで、息が止まりそうになる。

自分の恋人でもないのに、他の男に無防備な姿を見てほしくないなんて、自分勝手な気持ちがむくむくと膨れ上がってくる。周囲をそっと確認する。幸い近くには誰もいないようだった。
「風が強いよ、中に入らないかい?」
「……そうね。またスカートめくれちゃうかもしれないもんね」
「うーん、刺々しいなァ」
「サンジくん反省してないからね。ずっと口元が緩んでるじゃない」
「……おれも男の子だから」
「女の子なら誰だっていいんでしょ」
「君だけ特別って言ったら信じてくれる?」
「さぁね」
「本当だよ」
「……」
「……おれの前以外で、本当はスカートはいてほしくないんだ。今日みたいなこと、他の男の前でなるかもしれないなんて考えるだけで頭の中が沸騰しそうになる。余裕のない、小さな男だと思うだろう?」
一歩、彼女に近づく。
逃げたり、避けたりする様子は見られず、小さく安堵する。ただ、触れたらすぐに離れて行ってしまうような気がして、出しかけた手をもう片方の手で抑えこんだ。
彼女はこっちには目もくれず、困ったようにゆらりゆらりと視線を漂わせている。目と目は全然合わねェのに、彼女の頭の中はおれのことでいっぱいなんだろうなと思うと、嬉々とした気持ちがこみ上げてくる。
おれだけのことを考えて、悩んでくれるならずっと視線が合わなくたっていいような気もしてきた。

何か言いたげに、開いたり閉じたりする柔らかそうな唇は永遠に見てたってきっと飽きないだろう。
数秒後、彼女は心を決めたように唇を軽く噛むと、視線をおれに向けた。合わなかった目と目が合っただけで、心臓が爆発しそうになる。
視線が合わなくてもいいなんて、やっぱり嘘だ。取り消しだ。
「……それなら、私以外の女の子に、すぐ鼻の下を伸ばすサンジくんにもやもやする私は、心の狭い女だね」
揺れる瞳に浮かぶ感情はなんだろうか。
おれと同じ気持ちなんだろうか。
彼女に邪な気持ちを抱いてしまっていることを知っても、彼女はおれを嫌わずにいてくれるだろうか。

「サンジくん、叩いてごめんなさい。痛かったよね」
「いや、おれの方こそごめんね。手、痛かっただろ?」
叩いた手を気にしたことが不思議だったのか、彼女はきょとんとした顔をした。表情を緩めると、大丈夫だと言うように首をゆるゆると横にふる。
「それとね。私、可愛いって思ってほしい人の前以外では、スカートはかないから」
「……ん?ちょっと、まっ、」
彼女を引き留めようと手を伸ばす前に、遠くに見つけたナミさんとロビンちゃんのもとに、彼女は逃げるようにして足早に駆け寄っていく。駆けていく彼女の表情は読めなかったが、柔らかな声色からは微笑んでいたのだろうと察せられた。

色々おれにとって都合のいい言葉が聞こえすぎたせいで、頭が思うように動かない。

「可愛いって、思ってほしい人って言ったか?」

おいおい、待ってくれ。
思い返してみれば、おれが見る彼女はいつもスカートをはいていたような気がする。揺れる髪やスカートに誘われるように彼女に視線を向けると、彼女はいつも柔らかく笑うのだ。
今日だって、悪戯な風に乗せられるように彼女の方を見たら桃色の楽園が……じゃなくて!
まぁ、きっかけは最悪かもしれねェけど、彼女と距離を詰める好機が巡ってきたと考えればそれで良し。何もかも忘れないし、無かったことになんて絶対させない。
君を傷つけないようにそっと隠しておくから、下心の1つや2つ許してくれ。

あぁ、神よ!本当に色々ありがとう!
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