亡霊たちが泣いている



夢主死の表現注意です





「もし、私が死んじゃったら骨は遠くに流してしまってね」
「突然なんだよ」
「流してったら流して」
「随分と頑なだな。なんで?」
「情けない理由よ。サボがいつでも来れるようなところに埋められたら、サボに会いたくて化けて出ちゃいそうだから」
「はは、なんだよそれ」
「笑い事じゃないんだから」
「はいはい」
「もう……。死んだ私が未練がましくサボに会いにいかないようにちゃんと流してよね」
「分かったって。流せそうなら流してやるよ」

彼女とそんな話をしたことが、ほんの数日前の出来事のように思える。実際、いつ話したのかと聞かれたら、思い出せないくらい前だったような気もする。

胸にぽっかりと空いた穴を埋めるように、目の前にそびえ立つ石に触れた。
ヒヤリとしたその石からは、当然、温かさなんて微塵も感じねェ。それなのに、彼女の温もりを一切持っていないその石は、彼女がかつて生きていたことを証明する唯一のものとなっている。
彼女が死んだことを思い知らされるようで、墓石をたてることに最初は嫌悪感しか感じなかったが、いつしか冷たくて硬いこの石が、心の拠り所になっていた。

死んだ人間が、もし口をきける世界だったとしたら、彼女はおれを「嘘つき」だと責めるだろうか。
おれがいつでも来れるような、こんなところに彼女の墓をたてて、毎日のように足を運んでいる。
骨の一欠片だって流してやらなかった。

「……ま、嘘はついてねェよな。流せそうなら流すって言っただけだ」

屁理屈だと言っておれを叱るだろうか。
いっそ叱りに来てくれないだろうか。

……いや、嘘つきは彼女の方だ。埋められたら化けて出るんじゃねェのかよ。おれに会いにくるんじゃねェのかよ。あと何年待てば出て来てくれるんだ?
「流してって言ったのに」って、少し呆れたような顔をして怒るお前を、あと何年待ったら見られる?

「早く、化けて出てこいよ」

「さよなら」さえ言わなければ、いつかひょっこりと、呑気な笑顔を浮かべた彼女が現れるんじゃねェかと期待しているおれがいる。馬鹿だと、笑いたければ笑えばいい。
未練がましいのはおれの方だった。いつもどこかに彼女の面影を探して、重ねて、未だに死を認められずにいる。

墓石の前で踞るおれを、冷たい風が容赦無く突き刺した。
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