
花鬼
――男の子に喜ばれるものじゃなかったなあ。
じぶんの首をさすって、近藤さんが苦笑混じりにそう言った。――そんなこと全然気にしなくて良いのに。近藤さんから手渡された花冠をギュッと握りしめながら、僕はぶんぶんとかぶりを振る。
「近藤さんからの贈り物はなんでもうれしいです」
「はは、……それなら良いんだが」
名前の知らない花々で編まれた黄色い花冠。ところどころいびつな形をしているけれど、近藤さんが不器用ながらも僕を喜ばせるために一生懸命作ってくれたのだと思うとこそばゆい気持ちになって心臓のあたりがむずむずする。
花冠に視線を落とし、一音一音噛み締めながら「ありがとう、ございます」とつぶやいた。
こういうとき、感情をうまく表現できないじぶんが心底嫌になるのだ。『可愛くない子ども』――そんな単語がはっきりと脳裏を過る。
「総司は優しいな」
近藤さんの口からぽつりと零された言葉に、僕は思わず顔を上げた。もしかして、気を遣わせている……? ううん、近藤さんはそういう無意味なお世辞(に、なるのかはわからないけれど)を言わないひとだ。心に浮かんだ言葉を、自身の口調で丁寧に紡いでくれる。
もごもご、返事もできずに口ごもっていると、不意に近藤さんの手が僕の頭を優しく撫でた。
「一緒に作ってみるか?」
「……! ……はいっ」
それだけで僕の胸のうちは近藤さんに正しく伝わったようだった。太陽のような笑顔を浮かべ、「お前の方がうんと上手だろうな」と近藤さんが楽しそうに言った。
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近藤さん直伝の花冠を丁寧に編む。横から僕の手元を覗き込み、彼女はじいっとそのさまを観察している。
「器用だねぇ」
「そう? でも、近藤さんの方が上手だよ」
「ふうん。わたしも作ってもらおうかな」
「それはダメ」
ぴしゃりと言い放つと、彼女は僕のそういう反応を最初から予想していたようで、「はいはい」と幼い子をあしらうみたいな返事をされた。「総司くんの近藤さんだもんね」
「……トゲのある言い方だ」
「そんなことないよ。わたしの花冠は総司くんが作ってくれるんでしょ」
「うん、任せて」
近藤さんに作り方を教わってから、花が群生している場所を見つけては練習をくりかえしている。おかげでそれらしいものは作れるようになった。近藤さんは一種類の花で大きな花冠を完成させていたけれど、僕は手当たり次第そばにある花を編み込んでいくので、白と黄色が織り交ざったような花冠ができあがっていく。
「はい、完成」
仕上げに形をととのえ、できたてほやほやの花冠を彼女に差し出した。
「どう?」
「すごい! 上手!」
ぱあっと彼女の表情が綻び、それだけで僕の胸は幸福で満たされるのだから、我ながら単純すぎて呆れてしまう。喜ばれることがうれしい、だけで片付けて良いのだろうか。彼女の笑顔を見るとどうしてか無性にほっとするし、……同時にすこしだけ泣きたくなる。
感情の落としどころを見つけられずぐるぐると思考をめぐらせていると、そんな僕の複雑な心情などお構いなしな様子で、彼女は不意に自身の頭をずいと僕の方へ突き出し、明るい声色のまま「乗せて」と言った。
「……うん」
一瞬、面食らってしまったが、――すぐに我に返り、彼女に言われるがまま、まるい頭の上に花冠をふわりと乗せる。
「どう?」
「……うん、似合ってると、おもう」
何かを誤魔化すような口調になってしまったけれど、もちろん彼女がそんな細かいことを気にするわけもない。「わーい、ありがと!」と、気の抜けるような喜び方をされて、僕も思わず笑ってしまった。うだうだと余計なことで悩んでいる(……つもりはないのだけれど)ことが馬鹿らしく思えてくるのだった。
「今度は、わたしが総司くんの分を作ってあげる」
「僕が教えるの?」
「もちろん」
「仕方ないなあ」
そう言いながら、きっと今、目もあてられないくらいゆるんだ表情をしているに違いない。だいすきな子から贈り物をされる幸福を、僕はちゃんと知っているので。