本格的な合宿、忙しいのは選手だけでなくマネージャーも同じだ。夕方までの練習試合の後に選手は自主練に励み、私たちマネージャーは夕飯の片付けや大浴場の用意、洗濯が待っている。京治には自主練を見にくるように言われていたけれど、なかなか行けていないのが現状だ。特に今日は主将、副主将、3年マネで会議があるらしく、尚更会える時間がないのだ


私はというと、今日は食堂で真子ちゃんとえりちゃん、仁花ちゃんの4人で片付けと明日の食事の下拵えをしている。今日のうちに済ませておけば長い時間体育館に留まることができ、自分の学校の選手の様子を見ておきたい全員にとっても早く済ませておくのは得策だった


「明日のお昼はー...カレーか、わりと楽なやつだね」

「ねー!あれ、でもこれさ...」

「に、人参多すぎませんか...」


3人にならって野菜の詰められた段ボールを見る。明日以降の献立と見比べてみても大幅に余りそうだった


「人参だらけのカレーかぁ」


私が呟くと他の3人はなんとも言えない表情になった。うん、その気持ちはよくわかる...別に人参は嫌いではないのに、この段ボールの中身を見ると物凄い割合になりそうだ


「嫌いじゃないけど...」

「「「どうにかならないかな」」」


全員の意見が一致したところで、ふと昨日使ったゼラチンが余っていたことを思い出した。これなら多少使えるかもしれない


「ねえみんな、いいこと思いついちゃった!」


提案するとみんな乗り気になってくれて、みんなが下拵えをしている間に私が作業を行うことになった。さあ、まずはこの余る人参をミキサーにかけようか





1時間半後、冷蔵庫で冷やし固められたそれは綺麗なオレンジ色をしていた。夕食の片付けと明日の下拵えも丁度終わった。みんなを呼んでお披露目する


「「「おいしそー!!」」」

「よかった!こっそり食べなきゃね」


出来上がったキャロットゼリーは全部で27個。各校の監督・コーチ計10名に今会議中である主将・副主将計10名、そしてマネージャー7名。これ以上に人参を使うと少なくなりすぎてしまうかと思い、予測して使った末に出来たのが27個だ。選手にバレないように気を配らなければならない


「みんなに配らなきゃね、二手に分かれようか」

「なまえちゃんは主将のとこ行っておいで!!赤葦くんいるでしょ?」

「えっ...いいの?」

「こんなときに遠慮しないで、ほら、仁花ちゃんも一緒に行ってあげて」

「はい!なまえさん行きましょう!」


3人に背中を押されるように3回の会議をしている部屋へと向かう。コンコンとノックをすれば「ドーゾー」とやる気のない声が聞こえる、あ、これ黒尾さんだ


「あのー...今大丈夫ですか?」


そこにいた全員の視線が刺さってなんだか居た堪れない。ちらりと見えた赤葦は驚いた表情をしていて、隣にいる仁花ちゃんなんてガチコチ固まってしまっている、これは私が頑張らなきゃ


「そろそろ休憩するかってとこだし、大丈夫だぜ!何か問題でも起きたかー?」

「問題は起きてないです!あの、これ、良かったら食べませんか...?」


持ち運びやすいように入れていた袋からキャロットゼリーを出す。遠くに座っていた雪絵先輩の目が輝いていた。そこで例の件を説明し、全員が納得し休憩がてらデザートタイムとなった。仁花ちゃんは潔子さんに手招きされてそっちへ行ってしまった。私は...


「赤葦、隣座っていい?」

「いいよ、お疲れ様」

「赤葦こそお疲れ様!3年生ばっかりで気疲れしたでしょ?」

「わかる...?」


周りに聞こえないように2人でこそこそと話す。顔に出てるよ、なんて言えば眉間に皺を寄せて唸っていた。あぁ、なんだかこうやって隣で話すのはとても久しぶりに思えて嬉しくなってしまう


「マネの方もずっと忙しそうだね」

「みんなが自主練してる時間も、なんだかんだでやる事あるしね。今日は夕食の片付けしながらこれ作ってる余裕はあったけど」

「なまえ、無理しちゃだめだよ」

「大丈夫!体力に自信はあるから!」

「それならいいけど」

「赤葦こそ...木兎先輩いてなかなか休めないかもしれないけど、休めるときはちゃんと休んでね」

「ん、わかってる」

「なーに良い雰囲気出しちゃってんの?」


急に背中に重みがきてぐぇ、と可愛くない声が出る。だいたいこんなことをしてくる相手はわかりきっていて、毎日こんな感じだからもう慣れてきてしまっていた


「黒尾さん...どいてください、重いです、潰れる...うっ」

「なに?軽いって?」

「赤葦ぃ...助けて、」

「はぁ...黒尾さん、アンタ何やってんですか。早く退いてください」


ぐい、と肩を抱くように私を引き寄せた赤葦の黒尾さんにかける声が、思っていたよりも冷たいものでびっくりした。一方の黒尾さんはというと、そんな赤葦を楽しそうにけらけらと笑っている


「なんだよお前ら先輩差し置いて青春してんじゃねーよ」

「別にそんなつもりはないです」

「黒尾さんも青春すればいいじゃないですかー」


先輩に対してなんという軽口を叩いているのだろうか、でも黒尾さんにはこのくらいが丁度良い


「へぇ...じゃあなまえちゃん俺と青春しない?」

「生憎そんな暇はありませんので。そろそろみなさん食べ終わりましたか?ゼリーの容器回収しますね」


さらりと躱すとまた黒尾さんはげらげらと笑い出す。あの人のツボがわからない。けれど、隣にいた京治の機嫌があまりよろしくないことはわかる。


「明日は自主練、見にいくからね」


こっそり耳打ちすると、やっと眉間のシワがなくなった。ほんの数分だけではまだまだ充電不足で、心ではもっともっと、と京治を求めている。それでも今日は話せたことで明日も頑張ろうと思えるのは私が単純だからだ


「ゼリー美味しかった。ありがとう」


各主将達からの言葉を背中に受け、容器を洗うべくまた調理室へと戻った



2016.04.11