ガヤガヤと騒がしい調理室の中、至る所から美味しそうな匂いが漂っている。かくいう私の班も例外ではない。お味噌汁と鯵を捌いてフライを作るまでが課題、他におかず一品とデザートを何にするのかは班毎に任されている


「だからって...こんな渋いチョイス...」

「もう春も終わりだから食べ納めだよ」


菜の花の辛子和えをほんの少し嬉しそうに作る赤葦を見ながら、私はデザートの白玉ぜんざいを友達と話しながら作った

料理が出来上がって友達も他の班に遊びに行ってしまった。少しだけ暇でやることもないので先生からの評価がつけられるまでに片付けをしようと、使われた器具や皿をガチャガチャと洗う


「あれ、みょうじひとり?」

「みんな遊びに行っちゃった」

「俺も手伝うよ」

「ありがとう、でももう終わるから大丈夫だよ!」


と手伝いにきてくれた赤葦に言ったはいいが、捲っていた袖がズルズルと下がってきてこれでは服が濡れてしまう。申し訳ないと思いつつも赤葦に声をかける


「ごめん赤葦、袖落ちてきちゃって、捲ってくれない?」

「いいよ、............」

「な、なに.........?」


捲るついでのように腕をガシッと掴まれた。え、意味がわからない、何してんの、とか色々言いたいのに何も言えず赤葦の言葉を待った


「あの〜...あ、赤葦...?」

「腕......、」

「え?」

「腕、思ってたよりも細い」


掴まれているところがじんじんと熱を持っていく。騒ぎ立てる心臓なんて知るはずもなく赤葦は腕を離してくれない。こうなったら掴まれたまま皿を洗うしかないだろうか


「男の子に比べたら女の子はこんなもんじゃない?」

「まぁそうなのかも」


大凡納得してくれただろうか、少し掴む力が抜けたうちに残りの洗い物を済ませ濡れた手を拭く


「そういえば赤葦って腕細いよね」

「そんなことないと思うけど」


すっと彼の腕に触れてみる。自分の腕と比べて少しゴツゴツとした感じ、筋肉のつき方、二の腕までのラインもなにもかもが違っていた


「え、思ってたより硬い!すごい!」

「一応筋トレしてるわけだし、ある程度はついてるよ」

「うん、でも、すごい!」


すごいとしか言えない自分のボキャブラリの低さに嫌になるが、すごいものはすごいのだ。ちゃんと男の子なんだな、と改めて感じてしまう


「みょうじ、いつまで触ってんの」

「だめ?」

「だめ。そろそろ離して」


渋々離して赤葦の方を見ると、ほんのり耳が赤く染まっているような気がした。そんな表情を見るのは初めてかもしれない、ちょっとだけ得をした気分でなんだか嬉しかった



2016.03.05