「ただいまぁ〜」

「はいはい、いいから靴脱いで」

「けーじがやって」

「自分でやって」


どうしてこんな状態になっているのだろうか、冷静になれ、冷静に...。そうだ、事の発端は黒尾さんと木兎さんに呑みに誘われたことから始まったんだー...






「「赤葦、なまえちゃん/みょうじ成人おめでとー!」」

「あざーす」

「ありがとうございます」

「俺らからの細やかなお祝いってことで」

「遠慮なく食え!飲め!」



20歳の誕生日は過ぎていたけれど成人式を終えたこともあり、2人まとめて祝ってくれた。なまえの誕生日に俺の部屋で缶チューハイを飲んだけど体質的に弱いのか、すぐに赤くなって多くは飲めないことがわかった。でも二日酔いはしないタイプらしい。なまえもそのことをわかっていてあまり飲まないように気をつけていたはずだった...はずだったのに


「黒尾さん...アンタなまえに何飲ませた?」

「そ、そう怒るなって赤葦...酒苦手って言ってたからこれ飲みやすいぞって教えただけで...」

「それカクテルですよね?確かに飲みやすいですけどアルコール高めのやつじゃないですか」

「おーそういやぁ黒尾がみょうじの酔ったとこ見たいとか言ってたよなあ?」

「おい!木兎余計なこと言うんじゃねぇよ!」


ため息をつき黒尾さんを一睨みしてから机に突っ伏しているなまえを見る。少し斜めに顔を傾けているからか髪の隙間から赤くなった頬とう〜んと唸って眉間に皺が寄るのが見えた。控え目に言っても可愛らしいこの表情に落ちない男などいるだろうか、自分以外の誰にもこの表情を見せたくない。早くこの場を去って2人だけの空間にしたいも思ってしまうのは俺のエゴか。なんて考えている内になまえはパチリと目を開けてふらふらと起き上がった


「みょうじ大丈夫かー?」

「なまえちゃんわりぃ、飲ませすぎたな」




「ん...だいじょーぶれす...」





「なまえ、帰るよ」


ガタンと音を立てて立ち上がり、隣でふにゃりと笑ったなまえを立たせる。これ以上気の抜けた彼女を自分以外に見せるわけにいかない、木兎さんと黒尾さんにご馳走様でしたと一言告げてなまえの腰を抱きながら店を出た。店を出るときにチラリと見えた黒尾さんの顔が赤かったのはきっとアルコールのせいではないだろう。胸の内にある嫉妬心がふつふつと込み上げた。どうするのが正解かわからない、けれど自分の中にある答えはとある場所へと足を運んだ


「ベッドふかふかぁ〜」

「ほら、鞄こっちに置いて」

「はぁい」

「あと水飲んで」

「ん〜...やだ」


冷蔵庫に入っている無料の水を渡せば受け取りを拒否される。ここまでくると普段のなまえの方が幾分か素直のような気がする


「やだじゃなくて...ほら、早く飲んで」

「けーじ飲ませてぇ」

「......じゃあ上向いてよ」

「んっ......ん、」


意地悪したい気持ちと、これ以上なまえのペースに飲まれてたまるかという気持ちが激しく揺れ動く。これで少しは黙ってくれたら良い、こんなにも酔っているなまえを抱くことなんてできないし...顔を赤くして甘えてくるなまえを目の前に我慢しなくちゃいけないのは辛いけど


「けーじ...もっとちょーだい?」

「もう自分で飲みなよ」

「そうじゃなくて...キス...欲しいの」


折角我慢しようと思っていた気持ちが簡単にグラグラと揺れた。頬を赤らめてベッドに寝そべり、濡れた瞳で俺を見上げるなまえに心臓がどくりと音を立てた。そもそもホテルに入った時点で自分の欲望に我慢などする気もなかったらしい。理性なんて言葉はいとも簡単に崩れていった


「んっ、んぅ...はぁっ、」

「っは...ほら、もっと舌出して」

「や...くるし、んんっ」

「.......ん、まだダメ。逃げるなよ」


なまえと舌を交えれば酔った身体に熱が溜まり熱くぐちゅりと水音が絡まり合う

焦らなくて良い、しっかりと宿泊としてホテルに入ったのだから


2人だけの長い"夜"はまだ始まったばかりだ




2016.06.09