ふわふわとした、まるで空の上から覗いているような感覚が頭に残る。あぁ、この情景はいつか自分が体験したことのある、いつだっただろう、制服は冬仕様で白い息を手に吐いて、緩んで前に胸に落ちてきたマフラーを巻き直しながら部活終わりの彼を嬉しそうに待っている




「なまえちゃんお待たせ!」

「お疲れ様っ!そんな急いで来なくてもよかったのに」

「だって早くなまえちゃんに会いたかったんだもん」


男の子の発言とは思えないよね、なんてけらけらと笑う。それを楽しそうに酷いなぁ、なんて思ってもいない返事をして手を繋いで帰り道を並んで歩く

今日は美月ちゃんと岩泉くんのケンカの仲裁をしたとか、数学の先生が何回チョークを折っただとか、なんでもない話を楽しそうにうんうんと聞いてくれる徹が好きで、徹からもまた岩泉くんにたくさんボールをぶつけられたとか、授業中に寝ていたらノートがクラス中に回って落書きされて返ってきたとかそんな話を聞くのが大好きだった


「ねえなまえちゃん、ちょっと公園寄っていかない?」

「いいよ。あっ、ココア買おう!」

「じゃあ及川さんはコーヒー!」

「徹ってば大人〜明日岩泉くんに徹が苦いの飲めるようになったよって報告しとくね」

「ごめんなさいココアがいいです...」

「そんな見栄張らなくていいのに」


くすくすと笑うと彼は拗ねてしまったようで。けれど公園に着いてココアを口にすれば途端に柔らかい顔に変わって、あったかいね、と二人で綻んだ


「なんで急に公園に寄ろうなんて言ったの?」

「うーん...なんでかな、いつもよりなまえちゃんと長く居たかったからかな」

「そっかぁ...」


徹の言葉に心がポカポカと暖かくなる。3年生が引退して主将となった今、忙しくてあまり時間が取れないことは理解している。バレーをしている彼も好きだからそんなに苦ではないけれど、ワガママは言いたくない為にこうして徹から気を遣ってくれるのがとても嬉しかった


「なまえちゃんは...俺と一緒にいれて嬉しい?」

「うん、とっても!」


ニコリと笑顔を向ければ徹も同じように笑って、空き缶をゴミ箱に投げ入れてまた2人向き合って。視線が合って10秒、ゆっくりと目を閉じた。ふわりと唇に当たる暖かさにココアの甘さが交わる。いつしか腰に回された腕に応えるように、私も徹の首に腕を回して抱きしめた


「なまえ...もう一回、」

「ん、とーる、もっと...」


肌に刺さるような冷たい空気が、火照った顔と身体には丁度良かった

もう一度、もう一度と時間も忘れて何度もキスをした




2016.05.19