何やら香ばしすぎる臭いに目が覚める。随分とゆっくり寝たようだと身体を伸ばして部屋を見渡す、あぁ、昨日は黒尾さんという人に泊めてもらったんだっけ...家を出たくせに何の覚悟もしないまま、挙げ句の果てに男の人に拾われたのだとお兄ちゃんが知ったらどう思うだろう...いや、ケンカしているのにどうしてお兄ちゃんのことを考えるんだ。お兄ちゃんには関係ないことだ


「おー起きたか?」

「おはようございます」

「腹減ってるだろ、顔洗ってきたら一緒に食べようぜ」


ガチャと部屋の扉を開けば黒尾さんが固く焦げたトーストの乗った皿を持ちながら挨拶をしてくれた。見るからに食べられそうにないそれに顔が少し引き攣ったような気がした


「いえ、あ、あの...私、お兄ちゃんの出かけてる間に荷物まとめて持ち出したいんです」

「あー...時間が限られてるって感じか?その格好じゃこの時間の電車じゃ目立つから車出してやるよ」

「えっ、いいんですか?」

「ほら、荷物以外にもここで住むのに必要な物とか買わなきゃだろ?」

「へっ...?」

「は?」


まるで黒尾さんの家で済むことが決まっているかのような口振りに、思わず間抜けな声が漏れた。昨日出会ったときにかなりお酒の臭いがしたから酔っ払った勢いで1日だけ許可された、という解釈をしていただけに衝撃的だった


「私、ここにいても、いいんですか...?」

「俺はそのつもりで了承したんだけど...ま、丁度空き部屋もあることだし、ルームシェアだと思ってなまえちゃんさえよければ使ってくれよ」

「ありがとうございます!!お礼に何かさせてください!!」


その言葉に黒尾さんは必死すぎだろ、とゲラゲラと笑った。そして少し悩む素振りを見せると目の前に置いてあった皿に目を落とした。そういえば、と思い同じように皿を見ると黒く焦げたトーストにうっ、と言葉が詰まる


「なまえちゃん、料理できたりする...?」

「はい!料理好きですし喜んで引き受けます」

「......すげぇ助かるわ」



こうして私と黒尾さんの同居生活が始まった



2016.10.20