席替えをして田所くんの隣になった。
身体のおっきな彼は、1番後ろの席な事が嬉しいみたいで、席をガタガタと移動させていると、上機嫌で私の机を運ぶのも手伝ってくれた。

『ありがとう』
「どうってことねぇ」
『田所くんと近くになるの初めてだね、よろしくね』

手伝ってくれたおかげで、早々に移動が終わった私は席に座って、田所くんに声をかけた。
うん、田所くんってやっぱり怖くないし優しいと思う。周りの友達は田所くんてでかくて圧迫感あるし、愛想ないし怖いって皆言うけど、私はそんな事ないと思ってたんだよね。まぁ、ほとんど話したことないし自分から話しかけるとかしたことなかったけど。なんとなく。
それから、ちょくちょく隣の席だからか田所くんと話す機会が増えて、結構仲良くお話するようになった。

『田所くん、おはよう〜』
「おう、」
『なに持ってるの?美味しそうな良い匂い……』

先に席に座っていた田所くんは美味しそうな香り漂うパンを頬張ってた。今朝はちょっと寝坊してしまって、朝ごはんも食べずに慌てて来てしまったから嗅覚をくすぐられてしまう。

『朝練後の補給?お家がパン屋さんって良いなぁ〜』
「……食うか?」
『え?!……私物欲しげな顔してた?』
「いや、なんとなく」
『だ、大丈夫だよー!それ田所くんの分でしょ』

お腹空いてきたなぁ……とは思ってたけど、そんな物欲しげだったかな?
そう思ったところで、追い打ちをかけるかのように私のお腹の虫が盛大に鳴った。うわぁ……恥ずかしい!

「お前っ…」
『……ちょっと、そんな笑わないでよ〜!』

私の大きな虫の音に一瞬ぽかんとしたのち、豪快に田所くんは笑った。

『今日ちょっと朝ごはん食べる暇なかったから……』
「ほらよ、食え」
『でも、』
「腹の音鳴らしといて、黙って食えばいいんだよ」
『……ありがと』

手渡されたのは少し小ぶりのメロンパンで、ふかふかしてて甘い香りが食欲をそそる。

『……おいしーい!田所くんこれめちゃくちゃ美味しい!今度買いに行きたい〜!場所教えて!』
「ん、てゆうかそんなに喜ぶならまた持ってきてやるよ」
『本当?わーい、楽しみにしてる!』

ぱくぱくとお腹が減ってるから、勝手に口が進むんでいく。モグモグしながら話したからか、ふと田所くんを見るとちょっと呆れたような顔をして私を見ていることに気付いて、恥ずかしくなって口に含んでいた分を、あまり噛まずに飲み込んでしまった。

『んっ!』
「おい、なにやってんだよ!」
『ご、ごめん!』

持っていたお茶で慌てて流し込んで、なんとか落ちついたけど、うっすら涙ふぁ浮かんだ。田所くんも焦ったみたいで、咳込む私の背中をぽんぽんと叩いてくれた。

『ありがとう〜、びっくりした』
「俺の方が驚いたぜ」
『あはは、そうだよね、ごめん』

そうこうしている内に予鈴が鳴って、皆がそれぞれ席に着いていく。私も急いで残りを頬ばる。

優しい香りの男の子
田所くんって、パンの優しい香りがするの
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