暑い夏が始まった。
毎年毎年、この強い日差しなるとうんざりしてしまう。毎日毎日、日焼け止めに日傘、アームウォーマーは欠かせない。あとタイツ。
そうしないと肌の弱い私は真っ赤になってヒリヒリして、皮は剥けるし悲惨なことになってしまう。だから学生らしからぬ重装備で、目立ってしまうから嫌なんだけど、背に腹は代えられない。

「今日もキモい格好やな」
『御堂筋くん、おはよう』
「そないな格好恥ずかしないの?」
『恥ずかしい、ってゆうか目立つよね……』
「せやろ」
『でもヒリヒリして痛くなるよりは、まし』

この格好の時は、大体誰も声なんてかけてくれないのに御堂筋くんだけは違う。彼は、あまりそういうことは気にしないのかもしれない。

『御堂筋くんは外走るってるわりには黒くないよね』
「せやろか」
『何時間も走るんでしょ?インターハイって』
「せやなぁ」

一瞬ぎらりと、御堂筋くんの目が光った。それだけ彼にとっての自転車競技とインターハイは大きなものなんだろうか。いや、インターハイだもんね、当たり前か。

『今年は箱根であるんでしょ?』
「よう知ってはるね」
『従兄弟が箱根にいてね、マネージャーしてるんやって』
「へぇ……強いん?」
『知らないや』
「そやな。みょうじさん、興味なさそうやもんな」
『まぁね』
「…………」
『でも、』
「でも?」
『御堂筋くんが走るとこなら、ちょっと見てみたいかも』
「………」
『だけど日焼けするから無理かな〜』

そこまで話したところで校舎に入ったから、日傘とアームウォーマを外した。

「なまえー!おはよー!」
『おはよう〜』
「今日も日焼け対策ばっちりしてんねぇ」
『うん、当たり前じゃん』
「みょうじさん、」
『なぁに?御堂筋くん』
「……あ、じゃあ私先いくね」
『え? あ、うん』

友達は最後に小声で「うち御堂筋苦手ねん、ごめん」と耳打ちして、足早に廊下を歩いていった。

「みょうじさん、3日目、」
『3日目…?』
「インターハイのな、3日目、見に来てや」
『でも……』
「レースは見ぃひんでええから、うちの部のテントで待ってて。焼けんようにな」
『え…』
「……やっぱ、ええわ。ボク、キモいな、いきなり。暑さでおかしなったんかも、今の忘れてや」
『…………行く。焼けんくて良いなら、行くよ』
「……みょうじさんも物好きやな」


咄嗟に行くと言ってしまったけど、あまりに御堂筋くんが嬉しそうに笑ったから、まぁいっかなんて半分諦め気味に、従兄弟に泊めてってメールしないといけないなぁ思った。

ゴールで待ってて
ゴールに君がおってくれるなら、もっと早う走れる気するわ

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