放課後、私はいつも下校時間まで図書室で本を読む。下校時間になって図書室が閉まれば、それから部室の近くに座ってのんびり借りてきた本をまた読む。それが私の日課。

「なまえ、終わったぜ」
『迅くん!お疲れさま』

ようやく迅くんがお迎えに来てくれて、3分の2まで読んだ本に栞を挟んでカバンにしまった。
こうして、部活終わりの迅くんを待っている私を、友達は大変でしょ?と言うけれど。たまに1人で帰る方が寂しくて、つまらないよ。

『迅くん今日楽しそうだね?』
「そうか?」
『うん、そんな感じがする』
「面白そうな1年が入ったんだよ」
『そうなんだ、じゃあこれから楽しみだね』
「おう、」

ぎゅっと、迅くんの腕に自分の腕を絡めると、もう一方の手で2回頭を撫でてくれた。ずっしりとした迅くんの手は心地好くて、安心するから好き。

『迅くん』
「ん?なんだ?」
『私が待ってるのって迷惑……?』
「急にどうした?」
『ん〜、なんとなく』

迅くんは少しだけ考えて、すぐにまた笑った。このお日様みたいにギラギラと、眩しいくらいの笑顔が大好き。

「なまえと帰れるのは嬉しいぜ」
『そっか、なら良かった』
「でもな」
『でも?』
「もっと目の届く所にいてくれた方が助かる」
『もっと、って……?』

そういうと、少し迅くんは困ったように笑って、がしがしとまた私の頭を撫でる。

「もっと分かりやすいとこに居ろってことだ」
『でもあんまり目立つ所だと他の人に見付かっちゃうし……』
「……いいじゃねぇか別に」
『え…?』

少しだけ照れたようにそう言った迅くんだけれど、顔はいつも通り不敵に笑うから、多分照れ隠しかもしれない。
迅くんは身体も大きいし、声も態度も大きい。しかも自転車競技部で、目立っててうちの学校では有名人。だから、そんな迅くんと一緒にいるだけで噂はされるし、冷やかされる。
私は普通のなんの取り柄もないような、平凡を絵に描いたようなものだから、きっと迅くんは恥ずかしいに決まってる。そう思って、今までさりげなく人目に付かないようにしてたけど。……良いのかな?

『あの、迅くん…』
「…あー、なまえはやっぱ恥ずかしいか?」
『え?ううん、私じゃなくて、迅くんが恥ずかしくないの?』
「ん?俺は恥ずかしくないぞ?」
『え…、でも私なんかと付き合ってるのバレたら嫌じゃない?』
「は?嫌な訳あるかよ、なんだよ今までそんな事思ってたのか?」
『うん……』
「……ったく、馬鹿だな」

ぐしゃぐしゃと頭を強く撫でられる。温かくて、ちょっとだけ視界が歪んだ。ちょっとだけ。

「明日から、ちゃんと待ってろ。近くで」
『うん』

君待つ放課後
迅くんをね、待ってる時間って私結構好きなんだよ

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