『眠たいね』
「……寝るならベッド使えヨ」
『はーい』
「裕介は寝ないの?」
『これ、やってからな』

これ、というのは宿題なのか予習なのか、はたまた復習なのか分からないけれど、裕介はテーブルで教科書を開いて何かペンを走らせている。ごろごろと私は手持ち無沙汰に裕介の広いベッドで、意味もなく左へ寄ったり、右に寄ったり。
さっきの眠いという言葉に嘘はないけれど、このまま寝るのは少しもったいない。

『裕介〜』
「……何ショ」
『裕介、裕介〜』
「はいはい、もうちょいだからヨ」

右腕だけベッドの私まで伸びてきて、頭をポンポンとされた。
んー、気持ちいい。寝ちゃいそう。そのまま裕介の枕に顔を埋めると、鼻から裕介の香りが入ってくる。
このまま寝ちゃっても良いかな……、本当は裕介を抱きまくらに出来るまで待ってようと思ってたけど、このベッドで寝れば裕介と一緒にいるみたいなものだし。一応、目の前に裕介はいるし。

「なまえ、毛布被れよ」
『ん〜、ありがと…』

ぱさり、と毛布をかけてくれるのと一緒に、また裕介の匂いがしたから毛布をぎゅっと握って引き寄せた。暖かいし、匂いはするし、気持ちいいし良いかも。
しかも、さすが裕介の家の毛布は軽くて暖かくて、肌触りの良さは最高。駄目だ…、瞼が落ちていく。


ギシ、とベッドのスプリングが軋む音に気付いてうっすら目を開けると、ようやく裕介が隣に来た。いま一瞬だけ寝た気がするけど、結構寝てたのか、それとも時間は経ってなかったのか、分からない。でも、とりあえず握り締めていた毛布を離して、裕介の服を握り直した。
ん。やっぱり裕介の匂いが1番好き。移り香じゃなくて、裕介から嗅ぐのが1番落ち着く。ぴたりとくっつくと、じんわり感じる体温すら心地好くて。

「……おやすみっショ」
『おやすみ〜…』

私が意識を手放す瞬間が分かるのかな、と思うくらいタイミングよく裕介は、ポンポンと私の背中に回した腕で叩いた。

君心地
君の香りが安眠剤。

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