「なまえは今日も可愛いね、よしよし」
『ちょ、頭撫でないでよ…!』
「よしよし、そんな可愛いなまえにはこれをあげよう」
『あ、それは私の好きなチョコの新作フレーバー!朝コンビニ行ってもまだ並んでなかったのに!』
「欲しい?」
『欲しい!』
にんまり、新開がチョコを持つ手をひらひらさせた。毎日毎日、からかうかのごとく私の頭を撫でに通う新開は、私をペットとでも思っているのだろうか。そもそも、扱いがウサ吉とやらと一緒だから喜んで良いのかもわかんない。
でもこうして、たまに新開は私が好きなものをピンポイントで与えてくれるから、まぁいっかなんて思うのは単純すぎるかな。
『ありがと!新開!』
「美味しい?」
『うん!』
「じゃあ、ありがとうの抱擁は?」
『はい?』
何を言ってるんだこの男は。びっくりして、ぽかんと新開を見上げると、肉厚の唇が綺麗に弧を描いた。目が本気だ。
『やだよ、恥ずかしい』
「恥ずかしいから嫌な訳で、それ自体は嫌じゃない訳だね?要するに」
『なんでそうなるの!』
「なまえは恥ずかしがり屋だからね」
にこにこと嬉しそうに笑う顔にちょっとイラッとしたけど、チョコの手前我慢してあげよう。
大体、直線鬼とか言われてるらしいけどこの普段の姿からは全く想像できないんだけど。いや、見たことないんだけどね。
『1回レース姿でも見てみようかな…』
「そんなに俺のカッコイイ姿見たいの?」
『別にそうじゃなくて、怖いって噂じゃん。鬼なんでしょ?』
「……まぁね」
『新開が鬼ねぇ…』
「でもなまえが俺の事考えてくれてるのは嬉しいな」
ガバッと有無を言わせずそのまま抱き着かれた。ちょ、ちょ!やめてよ!皆に見られる!恥ずかしい!
しかも、苦しい…!運動部で男子なんだから加減してよ!
『しん、かい…!』
「あ、ごめんごめん」
『はぁ…、』
ようやく離してくれたから、それと同時に大きく息を吸って肺に酸素を送り込む。ちょっと涙出た。
『苦しい!鬼か!』
「なまえがあまりに可愛いからさ」
『なんなのよー!』
「…なまえ」
『なに…?』
ケラケラと笑ってたのが、急に真面目な顔になって反射的に私まで真面目な顔になってしまう。
「レースは見に来ないで」
『え……?』
「多分、嫌われちゃうからね」
『え?本当に?』
「うん、本当。どうしても見るっていうなら、それは俺の事、本気で好きになってから言って」
『え?なにそれ、どういう意味?』
「好きでもないのに見に来たら、その時は逃がしてあげないから」
『え、』
「……なーんてね!でも嫌われたら嫌だから、やっぱり好きになったら告白しにきてな?」
『……新開ってさ、変わってるよね』
「そう?…じゃ、また明日ね」
くしゃり、一度だけ頭を撫でてから新開は教室を出ていった。
なんなんだろう。でも、そこまで言うなら気になるけどやめとこうかな。でも、嫌われる程のレース姿って一体なんなのかなぁ。
本気になったら会いにきて
こっそり見に行こうと決心するのはもう少し後のお話。
嫌われたくないから直線鬼の姿見られたくない新開さん可愛いなぁ、ってお話