『おはよう』
「……はよ」

吐いた息が白くなった。
朝、玄関の扉を開けると俊くんが待っている。私が登校する前に、自主練をしている彼の頬は寒さに反比例して少し紅い。
今日も寒いねと言えば、そんな格好してるからだろう。と、おでこを小突かれた。

「上着、着てこい」
『え? 大丈夫だよ?』
「だめだ、風邪引くだろ。あと手袋とタイツも出さなくていいのか?」
『え、そんな急に言われても…』

本当はママが全部出してくれてあって、着ていけば? とも、いまさっき言われたけど、いらないと断った。
寒いし、着ていけば暖かいことは知っているけど、まだクラスの子たちは着ていないんだもん。タイツだって去年の今頃は既に出していたけど、皆まだハイソで、マフラーくらいしかしていない。

「おばさんのことだから、用意はしてあるだろう」
『…え』
「ほら、早くしろ」

勝手知ったる幼馴染の俊くんは、私の腕を掴んで、そのまま家へ入る。扉の開く音に気づいたママがリビングから顔覗かせば、俊くんはすかさず、コートはありますか? と聞いちゃうし、ママもあるわよ〜と呑気に手袋もセットで持ってきた。
結局、俊くんとママがタッグを組めば私に勝ち目などないのだ。

『ちょ…俊くん、これじゃあだるまみたいなんだけど』
「ふふ、確かに着せすぎじゃない?俊輔くん」
「…そうですか、ね…」

半ば諦めて、言われた通りに着込めば、もこもこになってしまった。自分はコートしか着てないくせに、私にどんだけ着せれば気が済むの!って思わず突っ込んでしまいそうになった。
ママに笑われてようやく自覚してくれたみたいだけど。

『でも、コートとか着てる人、いないんじゃないかな…』

渋りながらタイツに履き替えてくれば、他人と比べてどうすんだよ、とマフラーを巻き付けられた。最初に家を出る時は時間をかけて可愛くリボン型に結んだのに、俊くんはぐるぐる巻きにするもんだから鼻まで隠れて息苦しい。
だけど、それを抗議する暇もなく耳あても被せられた。去年クリスマスプレゼントに貰った、ピンクのふわふわしたお気に入りの耳あて。

「ほら、行くぞ」
『俊くんって本当に過保護だよね』

私自身、俊くんを過保護だと思うようになったのはごく最近で、友達に言われて、初めてそうなのかなぁ、と感じるようになったくらいで。
だけど、それは全く嫌な訳は無くて、むしろあの俊くんが私に過保護だなんて、ちょっと照れてしまう。

「なまえが頼りなさすぎるだけだろ」
『えへ……いつもありがとうね』
「ほら、急がないと遅れる」
『うんっ』

今までも、これからも、ママ以上に私に世話を焼いてくれるのは、俊くんだったらいいなぁ…って言えば、呆れた顔で俊くんは笑って、私はというと、ただ耳あての中の耳がすごく熱くなった。

「明日からは車で行くか」
『え、なんで?』
「なまえ、寒いだろ?」
『これくらい大丈夫だよ!もう、俊くん本当に心配しすぎだから!』

びっくりして慌てて全力で否定したら、そうか、と少ししょんぼりしたようにいつもの無口になる俊くんが可愛くて、顔がにやけてしまう。俊くんにバレれば、怒られるだろうからそっと、マフラーで口をすっぽり隠した。

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