御堂筋くんは、なぜか私に好意的だ。なぜか、と疑問に思うのは、私は御堂筋くんの彼女でもなければ、部活のマネージャーをやってるとか、クラスが一緒とか、そう言った類の繋がりが一切ないから。
それでも、御堂筋くんが私を好きなのかな? なんて自惚れるほどに優しくされるわけでもなく、でも、誰にでも鋭利的な態度の御堂筋くんにしては、友好的な……気がする。

「なまえチャン、何してるん?」
『御堂筋くん』
「ゴミ捨てか?」
『うん。御堂筋くんは部活?』

そうだ。あと、なぜか名前で呼ばれる。
部活の先輩にまで御堂筋くんと呼ばせてて、自分も君付けしてるらしいのに。
前に、それを聞けば「なまえチャン、最初に名前聞いたとき自分でなまえや、言うたやん」って言われて、苗字言ってなかったからかな?と思ったけど、苗字を知った今も、苗字で呼ばれたことは一度もない。

「せやで。なまえチャンは今週掃除当番なんか、可哀想やな」
『うん、ちょっとめんどくさいけど、帰宅部だならまだマシだよ。御堂筋くんは部活忙しいから、掃除当番ある週は大変だね』
「せやなぁ…」

部室へ向かう御堂筋くんと、外にあるゴミ置場へ向かう私と、玄関から歩く方向は途中まで一緒。雑談をして歩いて、分かれ道に着いたところで御堂筋くんが口を開いた。

「なまえチャンは、」
『うん?』
「石垣クゥンと付き合うてるん?」
『石垣先輩? え、なんで? 先輩とは委員会が一緒なだけだよ』
「……変な事言ったな、ごめんな」

ぽりぽりと人差し指で自分の頬をかく御堂筋くんは、普通の男の子で、私からするとなんの事もないと思うんだけど、他人から見た御堂筋くんがそうではない事も知ってる。
独特のオーラを放つ彼は、口を開かなくても異様な雰囲気を持ってるし、口を開いても異様だと、……思う。普段の姿を見ていると。

『ねえ、御堂筋くん』
「なんや、」
『なんかね、そういう事聞かれると勘違いしやすいから、思わせぶりなことは言わないほうがいいと思うよ。私だからいいんだけどさ』

ただでさえ、普段の御堂筋くんと私の知ってる、いや、私と居る時の御堂筋くんは違うのに、そんな変な事を言われると、意識してしまう。
いくら、私に甘いとか、優しいとかでも、そういう方面の好意な感じは今までなかったのに。急にそんなことを言うから、不意打ちでドキっとしてしまう。

「思わせぶり、て。思わせぶりな事なんて何一つあらへんと思うけど?」
『それって……、どういう意味のほう?』
「……ハァ? まさかなまえチャン、ボクに気がないんやなくて、気付いてさえないとか言わはるつもり?」
『えっ!そっち?!』

え、本当に本当に、そういうことだったの?! え、え、……冗談じゃなくて? 嘘……。

『御堂筋くんて、私には優しいし、なんか他の人よりかは仲良くしてくれてるなぁ…とは思ってたけど……』
「ボク頭痛うなってきたわ」
『ごごめん……』
「……謝るっちゅう事はもしかして、ボク今振られた?」
『ち、ちが、違うよ!気付かなくてごめん!って意味!』

だって、だって、私、自分で言うのもなんだけど、そんなにモテる方でもないし、あと鈍感でもないと思うのに。
男の子からのそういう好意ってなんとなく雰囲気で分かるつもりだったのに、御堂筋くんそういうあからさまな態度ないし、友達として接してくれてるんかな、って本当に思ってた……。

御堂筋くんに告げれば、ホッと一息つくかのような溜息を吐いて、それから笑った。
え?笑うとこ、なの?

「ホンマになまえチャンは飽きへんな……確かに、なまえチャンが言うことは分かる」
『御堂筋くん…?』
「普通のザクが、こんな態度でもそんなもんかな思うわな。でも、このボクがこの態度なんやから、おかしいな? 好かれてるかな?って気付いてくれはるって過信してたわ。アホやな、ボク」
『うん……、御堂筋くんが私に好意持ってくれてるってのは分かってたよ。 でも御堂筋くんが言うように普通の人にしたら友達として好き、ぽいし変に自意識過剰になるのも嫌だし、そう思ってた』
「やっぱり、な」
『でも、御堂筋くんがそういう風に私のこと思ってくれてのって、嬉しい』

それは、一つの優越感に近いのかもしれないけれど。御堂筋くんにそう言われて悪い気がするどころか、単純に私は嬉しいと思った。
本当に御堂筋くんのことが私は好きなのか、御堂筋くんも本当に私のことが好きなのか、それはまだゆっくり見定めたいけれど、それでも、

『私も御堂筋くんのこと好きだよ』
「な、……なに言うて、」
『そういう好きなのかは、まだ分からないけど』
「それ、……宣戦布告と思ってええん?」
『ええで』
「プッ。 なんでなまえチャンいきなり関西弁なん」
『なんとなく……』

ホンマになまえチャンは、ボクを飽きさせん天才やわ。そう御堂筋くんはにんまり笑って、目を細めた。

「ほな、ボク部活行かなあかんからまたな」
『う、うん。またね』

踵を返して、自転車競技部の部室のある方向へ歩いていく御堂筋くんの背中を見送ると、振り返らずに御堂筋くんは手を振った。
私がずっと見てるの分かってる…。宣戦布告どころか、もう私は御堂筋くんに負けているのか、もしくは、術中にまんまとハマってしまっているのかもしれない。
これが作戦なのか、どこまでが意図しているのか、それを知る術は私にはまだない。

だけど、一つ言えることは。御堂筋くんは、既に私の中での"特別"な存在になってしまった、ということだと思う。

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