「なぁ、今日ボク以外の男に触れたやろ」
『早いね?部活終わったの?』
「終わったんやない、終わらせたんや。 質問に答えなあかんやろ」
『触ってないと思うけど……なんで?』

放課後、御堂筋くんのクラスの教室で部活が終わるのを待っていたら、思いのほか早く学ラン姿の御堂筋くんが現れた。
表情はいつも通りだけど、言動とオーラから少し機嫌が悪いのが分かる。

「今日なまえのクラスの体育、運動会使ってたんやろ」
『あ、うん。見てたんだ』
「そんで転けとった」
『あ……あれか』

確かに、転けた時にクラスメイトの男の子が助けてくれた。あれを見てたのか。
でもそんな、やましいことがある訳じゃないんだけど、って御堂筋くんに言っても……一緒か。彼の独占欲というのは、私でも収まらないくらい強くて、でも、単純に嬉しい。

「右腕掴まれとったなぁ」

御堂筋くんに右手が掬われて、そのまま口元へ運ばれる。
ちゅ、と短いリップ音した。初めは手の甲。それから手首、腕、肘、とゆっくり少しずつ、されるがままにキスされていく。
誰もいない教室に音が響く。それが恥ずかしくて堪らなくなる。誰が見てるわけではないのに。

「消毒せなあかんな」
『そんなに色んなとこ触られてないよ』

ちゅ、ちゅ、と登ってきた唇は、私の首筋に落とされる。消毒されてるのか、それを口実にキスされてるのか分からないけど、嫌な訳がないから、それに甘んじる。
御堂筋くんの愛情表現はシンプルで単直で、それでいて心地良い。

『御堂筋く、ん』
「またや」
『ん……』
「翔、って呼びぃって言ってるやろ。言うこときかん悪い子はお仕置きしたらなあかんかなぁ」
『だって、』
「ちょっと黙りぃ」

さっきまでの触れるだけのキスではなくて、啄ばむように唇が触れる。ちゅ、なんて可愛らしい音じゃないのが、さっきとは比べものにならないほどの羞恥心を煽る。
下唇、上唇と丁寧に少しずつ、少しずつ。
普段の彼からは想像も付かないような優しいキスは、私しか知らない。それが堪らなく嬉しくて、好き。

『これじゃあ、お仕置きにならないね』
「……なまえが言うお仕置きって、どういうん想像してはるんや?」
『叩かれたり……は、しないと思う。みど…翔くんは』
「じゃあ、どんなんやろか」
『え? 私に聞くの?』
「なまえはどんなお仕置きされると思ったん?」
『ん〜? そんなこと考えたことないけど……』

唇を離されても、首から下へのキスは止まらない。なんだかマーキングされているみたいで、可笑しくなってくる。本当にこれがマーキングでなら良いのに。

『翔くんは身体的なやつじゃなくて、精神的なやつの方が好きでしょ?』
「たとえば?」
『私以外の女の子と仲良くしたりとか』
「……それ、ボクにやれって言いたいん?」
『嫌すぎ』
「ボクも嫌やわ、ソレ」
『じゃあ、やめとこう?』
「せやなァ」

相槌を打ったはずなのに、頷かれた気がしないくらいに、御堂筋くんが綺麗な歯並びを見せて微笑んだ。なにか企んでるようなこの表情は、怖いのに、ドキドキしてしまう。
しないとか言って、やっぱり何かするつもりなんじゃないのかな。そんな気がしてしまう。

『翔くんがやったら、私もするからね』
「あかん」
『しないけど、翔くんがやったら、だって』
「あかん」
『……もう、なにこれ。バカップルっぽい』
「あかんの?」
『あかんくないけど、』
「けど?」
『恥ずかしくなってきた……』
「……ボクもや」

思わず、軽く吹いてしまう。御堂筋くんのこんな姿もやり取りも、誰も知らないだなんて、もったいないけど、独り占め。
どっちが彼の本当の姿なのかなぁ、って考えたこともあるけど、多分どっちも本当の御堂筋くん。
好きなものに対しては本当に甘くて、優しい。

『翔くん、』
「なんや?」
『好きやから、浮気せんといて?』
「んー……それは、反則やなァ」

そう言って、御堂筋くんがゆっくり顔を近付けてきた。またキスされるのかな、って反射的に目を閉じれば、間を置いて想像してたものとは違う感触が頬に走る。
びっくりして目を開ければ、してやったり顔で笑う御堂筋くんの顔があった。

『な、なんで……舐めたの』
「食べてしまいたいくらいやったから、味見……?」
『味見……』
「なまえは甘い味や」
『しないもん、そんなの……』
「甘美な味やから、ボクだけが味わえればええんや」

今度は左腕を拾い上げられ、人差し指を唇に持っていかれる。
ちゅうと長めのリップ音が鳴ったかと思うと、すぐに生温かいものが触れる。舐められているといるより、咥えられてると言った方が正しいかもしれない。そこまで考えて、ようやく脳が状況が飲み込めてきたのか、顔が熱くなってゆく。

ぺろ、と平均よりも長い舌を出して、舌なめずりする顔はいつもよりも楽しそう。私ばっかり照れてるのが、なんだか悔しくなって御堂筋くんの腕を引っ張る。
少し驚いたのか、目を大きく開いた表情を見て、今度は私がにやけた。
そして、そのままそっと、その手を私の頬に当てた。

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