『裕介くん』
「なんショ」
『折り入ってお願いがあるんだ』
「……なまえのお願い聞いて良かった試しがないショ」

お昼休み、隣のクラスを訪ねればお昼ご飯なのか、パンをかじってる裕介くんがいた。
裕介くんとは高校に入ってからクラスは一緒になることはなかったけど、小学校から一緒の幼なじみみたいなもので。中学の時からずっと片思いだったりもする。
でもまぁ、そんな周りの友達みたいな甘酸っぱい恋をしている訳ではなく、このままの感じでも良いかな〜なんて、呑気に今の関係に甘んじてもう3年くらい。
裕介くんも部活で忙しいし、下手に邪魔したくないし。

それに、あまり人とつるまない裕介くんにしたら私は結構仲が良い方だと思う。話すの苦手だからか女の子で裕介くんと仲良い子って全然いないし。

『でね、聞きたいことがあって…』
「って、まだ良いってないっショ?!なに弁当広げるてんだヨ!」
『タコさんウインナー食べる?』
「いらないし」
『はい、あーん』

ついでに言うと、なんやかんやで私に甘い、とも思う。
フォークに刺して口に持っていけば、結局黙って食べちゃうところがまた可愛いよ、裕介くん…!

『あのね、裕介くんの部活に手嶋くんていう後輩いるでしょ?』
「んァ?いるけど…」
『手嶋くんて彼女とかいるのかな?』
「……彼女ォ?」
『そう!彼女!』

急に裕介くんが怪訝な顔をするから、手嶋くんには彼女がいるかもしれない。裕介くんの答え次第で私のテンションも変わるから、ごくり、と生唾を飲んだ。
はやく…、一思いに言っちゃってくれー!

「いないんじゃねぇかナ…多分」
『よしきた!』
「てゆうか…」
『じゃあじゃあ!好きな人は!?気になる人とかいるのかな!?』
「……知らねぇヨ」
『えー!そんなー!じゃあ聞いてみてよー!お願い!恋路がかかってんだから…!』
「恋路…?好きなのか?」
『うん…!友達が…、って裕介くんどこ行くの!?』

いきなりガタッと立ち上がって、スタスタと歩き出す裕介くんを慌てて追いかける。急にどうしたんだろう…?

『ちょっと裕介くん?どこ行くの?!』
「…………手嶋のこと聞きてェなら、俺じゃなくて田所っちに聞く方が良いショ」
『え、でも私田所くんと接点ないし…』
「てゆうかなんで手嶋なんショ?」
『え…そんなことに言われても私はわかんないよー?』
「好きな奴にそういうの聞かれるの普通苦痛ショ?」
『まぁ、好きな人に言われたら悲しくなると思うけど…』
「だから俺に聞くのはやめてくれヨ……」
『え、なんで?』
「…………」

呆れたような、悲しそうな顔で裕介くんは私をちらりと見てからそのまま、またスタスタと止まらないで歩き出したから、私は呆気にとられそうになったけど、小走りでなんとか後を着いていく。

『裕介くん?』

昇降口まで着てやっと、歩みを止めた裕介くんが私の方に向き直って立った。

「普通俺がなまえのこと好きって分かって着いてくるかァ?」
『え…?』

好きって何が誰を…?そう言ってジリジリと私に近付いてきて、その圧迫感はいつもの裕介くんじゃないみたいで。
思わず後ずさりしてしまう。

「なまえの口から手嶋がどうとか、手嶋が好きとか聞きたくないショ!言わせんなヨ…」
『え?何言って?ちょ!?』

トン、と壁に背中がぶつかって、それでも裕介くんの歩みは止まらなくてどんどん近付いてくる。
え…、なに、これどうなるの…?
触れるくらい近くになった裕介くんに腕を掴まれて、逃げ道はなくなった。いや、裕介くんだし逃げる気はなかったけれど、それでもいつもと違う様子にちょっとたじろいでしまう。

うわ…、キスされる?!
そう思うくらい裕介くんの顔が近づいて、反射的に目をつぶれば一瞬の間を置いて、唇ではなく肩に感触を感じた。

『裕介くん?あの……』
「…ごめん」
『あのさ、……私の自惚れかもしれないから恥ずかしいんだけどね、』
「……」
『裕介くんて私のこと…好きなの?』
「……それをまた言わせるとかなまえ、残酷ショ?」
『いや……あのね、裕介くん勘違いしてるみたいだけど。手嶋くんを好きなのは私の友達だよ?』
「…………は?」
『友達に頼まれたんだよ、私が裕介くんと仲良いから聞いてきて、って』
「…………はァ〜?!」

私の肩に乗せていた頭を起こしたかと思うと、気が抜けたみたいに裕介くんは、その場にしゃがみ込んだ。それに合わせて私も、裕介くんの目の前にしゃがむ。

『だから、……もし裕介くんが私のこと、好きって言うなら……、両思いだね?』
「…!!」
『3年くらい好きだったんですけど…』
「……まじかヨ…」
『まじですヨー』
「マネすんなショ」
『マネしてませんショ』
「……クハッ。お前もっとはやく言えショ」
『いや〜、別にこの関係で良いと思ってたけど…、両思いって良いですな』

そう言って、お互い笑い合うと見計らったかのように予鈴のチャイムが鳴った。

勘違いのち、両思い。

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