放課後になると急ぐでもなく、ゆっくりするでもなく、準備が出来ればスタスタと教室を出ていって、1人さっさと着替えて練習を始める影に近付く。

『御堂筋くん』
「……またお前か」

ちらりと私を見て、ただそれだけで、一切手も動きも止めない。
ここに来るようになってどれくらい経っただろう。最初は私のことをうざがっていた御堂筋くんも最近は諦めたのか、うざがることすらあまりしなくなった。
相変わらず、彼お得意の厭味は毎回炸裂するけど、それでももう私も慣れてるからあまり気にしない。
とゆうかなんとなくただ言ってるだけかな、ってのが分かるようになってきた。

『ねぇ、御堂筋くん』
「トレーニングしとるん分からんのか?」
『見たら分かるよ』
「キモ!」
『御堂筋くんこそキモい以外に何か言えんの?』
「きゃんきゃん煩い奴や、ほんまキモキモキモー」
『御堂筋くんのが巷ではキモいと専らの噂やよ』
「……キモいねん」

なんて言う器具か分からないけど、自転車を漕いでも進まないのが不思議で、何回見てもまじまじ見てしまう。

『御堂筋くん』
「…………」
『インターハイ、出るんやろ?』
「……だったらなんや」
『見に行ってもええかな』
「…キモ!」
『……行くね』
「……やめてくれへん?そういうの。ほんまキモいねん」
『本当に嫌ってこと?』
「箱根やで?今年の開催地」
『うん』
「ほんまなまえってキモいな」
『うん』
「……トレーニングしとるんやから話し掛けんといてや」
『でも話しながらのが、息上がるしトレーニングになるやろ?』
「キモ」
『うん、キモいね』

私も御堂筋くんの事好きな自分、キモいと思うわ。
友達には諦めた方がええ、って言われるけど、でも知ってるんや。
御堂筋くんが名前で呼ぶのは私だけだって。

御堂筋くんも私を好きかもとまでは思わないけど、そこまで自惚れないけど、でも特別ってくらいは思ってても良いかな…とは思ってる。
それを言えば、名前で呼んでくれなくなるかもしれないし、避けられちゃうかもしれないから、それは言わないでおく。

『インターハイ、楽しみだね』
「……せやから来てええなんて言うてない」
『勝手に行くもん』
「なまえキモ…」

淡い期待と淡い希望
いつか"キモい"が"好き"にならないかな、なんてのは夢だと分かってるけど。

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