「巻島ってさ、目付き悪いし、髪の色とかおかしいし、キモいよね〜ぶっちゃけ」
「キモいってゆうか、私はむしろ怖いんだけど」
「あー、それわかるー」

移動教室で、廊下を歩く女の子たちが巻島くんの話をしていた。
その内容はほぼ悪口で、そんなことないのになぁなんて思いながらも反論できるほど仲の良いクラスメイトではないから、彼女たちから少し離れた所を歩く。

ちょっと歩いた所で、柱のかげに緑色の髪色が目に入って、思わず立ち止まってしまった。

『……巻島くん、さっきの聞いてたの?』
「別に……よく言われる」

ああ、やっぱり聞いちゃったんだ。
女子特有の調子に乗って話を盛っちゃうとゆうか、なんとゆうか、そういう類の会話。でも、思い返すと結構酷い事も言われてたし、元々元気顔じゃない巻島くんの顔が、余計に元気がなくなったように見えてきて、私の方が悲しくなってきた。

『落ち込まなくてても、あれは女子特有の話を盛っちゃう感じだから……』
「別に気にしてないショ」
『………うん。気にしなくて良いから本当に。大丈夫、巻島くんはキモくないし、カッコイイと思う』
「カッコイイとかお世辞はやめろヨ。ダンシングだってキモいってよく言われるってゆうか、カッコイイなんて言われたことねーし」
『……じゃあ、私が最初ね』
「は?」
『巻島くんのダンシング、カッコイイねって言うの』

確かにすごいスタイルだから、初めてみた時はびっくりしたけど、すごいって驚いたのはよく覚えてる。そんでもって、坂道であんなこと出来て、しかも早いだなんて、カッコイイ。そう思ったのも本当。

「ダンシングって……見たことねぇのに言うなっショ」
『見たことあるよ、去年のインターハイ』
「え…?」
『巻島くんかっこよかった。理屈じゃなくて、自分のスタイル貫いてるんだって、初心者な私でもわかったもん』

去年の夏、私はお兄ちゃんに連れられて見に行った。スポーツ観戦が趣味のお兄ちゃんが、今度は自転車競技でも見るか!と言い出して、なんとなく着いていった。

そこで巻島くんを見た。
あの時はクラスも違って面識もないけど、巻島くんの特徴的な髪の色のおかげで、すぐうちの学校だって分かった。

『私は巻島くんがその髪で良かったよ』
「何いってんショ」
『だって巻島くんが普通の髪だったらあの時、気付けなかったもん。巻島くんが走ってるって』

それから夏休みが終わった後、私はよくこの玉虫色の髪を探すようになった。

『去年のインターハイ以来、私は巻島くんの事、カッコイイって思ってるよ』
「…な、な何言って……おかしいやつ…」
『ずっと内緒にしてたのに言っちゃった……』
「……」
『今年も、見に行くからね』
「……ありがとっショ」

真っ赤な顔をして、目は合わせてくれなかったけど、巻島くんはそれだけ言うとさっさと歩いて行ってしまった。

ああ、恋じゃないと、自分に言い聞かせていたのに……叶うわけなくて、だから恋なんかじゃないと、認めちゃいけなくて。なのに、こんな告白まがいなことして、恥ずかし過ぎて……どうしようもない。

でも、もし。巻島くんが私に笑ってくれるとしたら…?
淡い期待を抱いても良いのかな、なんて耳も紅くなってる彼の後ろ姿を見ながら思った。

私だけが知ってれば良い
このちょっと可愛い一面も、カッコイイ姿も。

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