ひとしきり話を聞いて貰って、少しは落ち着いた……気はする。でも、1人になりたくなって、放課後1人になった教室でぼんやり窓から差し込むオレンジ色を眺める。友達は一緒に帰ろうと、心配して誘ってくれたのは分かったけど、それでも今は1人になりたい気分だった。明日からまた普通にしていられるように、自分の気持ちを整理したかったし、無理にでもどうにか納得しないと苦しい気がして…。あぁ、でも、明日からどんな顔して会えば良いとか、会いたくないとか、心配しなくてもクラスどころか学年も違うんだから、会わないんだった……って気づくと余計に悲しくなる。
わたし嫌われるようなことしたのかな……、思い当たるのはやっぱり勝手に橘くんに聞いたメアドくらいだけど。伊武くんは、別に怒ってないって言うし。いやでも、怒ってたとしても、違うって言ってるのかもしれないし……、ああ、もう分からない!!
とりあえず言えることは、嫌われてしまったみたいだと言うことと、もう接点が無くなってしまったということくらい、かな。唯一のメアドが残っても、迷惑がられて返事もないなら意味はないよ。……まともに好きとも、言えずに失恋かぁ。なんかあっけなさ過ぎて笑える。

「なまえ先輩」
「え……伊武くん、」

なんで、と無意識に出そうとした声は、声にならなくて。人間はあまりにびっくりすると喉が閉まってしまうらしい。なんで、伊武くんがここにいるの?部活の時間じゃないの?この教室になんでいるの?私になんの用なの?決定打なら、これ以上打たないでほしい。そう思った。迷惑だから関わらないで、なんて言われたら私……、

「俺、なまえ先輩が好き」
「そ、それ以上言わないで! ……え、?……ど、ど、ど、どういうこと?」
「なに訳分からないこと言ってるわけ、…って言いたいとこだけど。今日はそんな余裕ない。好きって言ったんだけど、理解できる?」
「……日本語は理解できてる……で、でも伊武くんが言ってること、意味が分からない、私…」
「うん、私?」
「私……、伊武くんに嫌われたんだと思ってた。急にそっけなくなったから、迷惑なんだと思ったの」
「うん、そっけなくしたし」

どういうこと、? 伊武くんの意図が理解できない。私ってこんなに頭悪かったけ?こんな会話がよく分からないなんて……いやでも、私がおかしいの? 伊武くんの言ってることだっておかしくない?あれ?

「あのさ、俺も恥ずかしいから1度しか言わないから、よく聞いて」
「……うん、」

自分を落ち着けるために、大きく息を吸う。落ち着け、私。なに言われても強いハートで受け止めるんだ。できる、私ならできるから。

「なまえ先輩が好き。そっけなくしたのは、……橘さんのこと好きなのかも、って勘違いしてたから」
「…………」
「……返事も相槌もなし?」
「う、……そ」
「嘘だと思いたいなら別にそれでもいいけど」
「や、やだ!!」

え、なにこれ。自惚れていいの?本当に?そのままの意味で捉えていいの?冗談じゃない?喜んでいい??喜んでいいの? いや、でも、そんな上手いこといくわけ……

「ねぇ、1人で百面相してないで、何か言ってくれない?これでも一応告白してるんだけど」
「……わたしも!私も、伊武くんが好き……」
「そう、」
「……え、それだけ?」
「他になんて言ってほしいわけ?大体こっちは告白して緊張してるってのに、間抜けな顔してこっち見るだけとか止めてほしいよね。そもそも勘違いした俺も悪いかもしれないけど紛らわしいことした先輩にも非が全くないとも言えないだろ、それに」
「ちょ、ちょ、ちょっと、伊武くん」
「なに」
「そんな紅い顔でぼやかれても……こっちも照れちゃう」

今まで見たことないくらいに頬を紅くした伊武くんに思わず突っ込んでしまった。多分それ以上に私の顔のが紅いくせに。ねぇ、これいいんだよね?本当にいいんだよね?自惚れて、喜んでいいんだよね?さっきまでこの世の終わりかと思ってた私なんて一瞬で吹き飛ぶよ…?!もう無理、

私ダメかも死んじゃう!

「なんでそうなるの?」
「嬉しくて死んじゃいそう!なの!」
「死んでいいの?」
「やだ!まだまだ聞きたいことあるもん」
「ふーん、例えば俺が今年の春から先輩のこと好きだったとか?」
「そうそう、……て、は?!ど、どどどどいうこと」
「冗談」
「なんだ、冗談か……そうだよね、あは、」
「じゃ、俺帰るから」
「え、待って!一緒に帰ろう?!」
「……勝手にすればいいんじゃない」
「うん……!」
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