「じゃあ帰るから」
「おう!ありがとな!先輩もありがとうございましたー!」
「うん、喜んで貰えると良いね!」
「はい!」

そう言ってにっこり嬉しそうに笑った神尾くんは、ぶんぶんと大きく手を振って一足先に帰って行った。

「神尾くんて、なんか可愛いね」
「一緒にいたらうるさいよ」
「でも楽しそうだけどなぁ」
「あんたも物好きだね」

珍しく伊武くんのぼやきが短くて、すんなり台詞が終わってしまって一瞬沈黙になった。

「伊武くん?」
「なに」
「お腹空かない?」
「……別に」
「すぐ近くに美味しいクレープ屋さんがあるんだ!だからちょっとそこ行こうよ!」
「……人の話聞いてた?」
「奢っちゃうから!」
「……そこまで言うなら行ってもいいけど」

やった!躊躇いがちに承諾した伊武くんの手を掴んで、少し早足で歩く。ちょっとこれはデートっぽくない?端から見たらカップルとかに見えちゃったりして、なんてね!

「顔にやついてる、食い意地張りすぎ」
「え!?……あ、いやそういう訳では」
「じゃあなに?」
「……そうです、すみません」

デートっぽいからってテンション上がったなんて恥ずかしくて言えない。それくらいなら食い意地はってることにしとこう、うん。

「私苺チョコ生クリーム!伊武くんは?」
「ツナサラダ」
「サラダクレープとは、中々伊武くん通ですなぁ」
「別に。今の気分なだけだけど」

セレクトもなんだか格好良いよこのやろう!私なんかサラダクレープ食べてみたいって、いつも思うけど結局甘いの食べたいから1パターンだもん。そうこうしてると手早くクレープを作った店員さんがにこにこと2つ手渡ししてくれた。早速お店の前に置かれたベンチに座って一口頬張る。

「おいしー!」

やっぱりクレープは苺チョコ生クリームよねぇ。チョコ生クリームの甘ったるさの中に苺の甘酸っぱさがたまらない!

「やっぱり学校帰りのクレープは美味しいね?」
「ね、とか言われても……クレープなんてあんまり食べないし。というか、そもそも部活帰りに男ばっかのむさ苦しいメンバーでクレープなんて食べに行こうなんてならないし、言われても行きたいと思わないに決まってると思わないのかな。それに今日土曜で提出物出しにきただけだって言ってのに学校帰りって言い方は」
「え!ねぇ、じゃあこういうクレープ食べに来たの私が初めて?!」
「まぁ……」

なにそれ!初放課後デート的な!?伊武くんの初クレープデート的な!やばい、それはテンション上がるよ!ちょっと、いやすんごく嬉しい。

「またにやついてる。気持ち悪いからやめてくれない?」
「おおう……私気持ち悪い?それはちょっとショックかも」
「俺のぼやきは平気なのに、そこ突っ込むだ?変な奴だね」

そう言って、伊武くんがちょっとだけ笑った。それがもうもう可愛くて、格好良くて、ちょっと目眩がした。やっぱり伊武くんて格好良いし、皆が言うほど嫌味じゃないし良い子だよなぁ。はぁ……好き。

「帰るよ」
「うん!美味しかったね?」
「まぁね、……ごちそうさま」

伊武くんはちょっとだけ照れたみたいに私に御礼を言って、手を差し出した。

「……あ、ありがと」

一瞬びっくりしたけど、慌てて手を取るとぐいっと、でも優しく立たせてくれた。

「行くよ」
「うん!」

でも、それだけで手は離されてしまって、ちょっと名残惜しい。手を繋いでくれる訳ではないのね。……ま、そりゃそうだよね。でもでも、ちょっとひんやりした手は伊武くんらしくてドキドキした。

「またニヤついてるよ」
「えへへ、いいの!」
「変な人……さすが物好き」
「なんとでも言いなさい!」
「あっそ」
「また放課後寄り道しようね!」
「なまえ先輩が奢ってくれるなら考える」

そう言うと伊武くんはすたすたと先に歩き出しはじめて、私は慌てて追っ掛けた。

なんならいつでも奢りますから!

「……行くとは言ってないけど」
「伊武くんなら行ってくれるよ」
「まったく、都合の良い人だな。人の意見無視も甚だしいし、そもそも聞く気すらないのかな」
「夕日が綺麗だね〜」
「……」
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