「そ、そこで待っとれや!!」
放課後、小春くんに言われた通りテニスコートへ向かった私を、最初に見つけてくれたのは一氏くん。こちらが何かを言うより先に、早口で言われた。
告白された時より真っ赤な顔して言うもんだから、なんだか私の方も照れてしまう。照れてる場合やないんやけど。
……待ってろ。
そう言われて照れる私は、少なからずやっぱり一氏くんが好きなのかもしれない。嫌な気はしない。
でもそれはやっぱりそういう好きじゃないと思うし、ごまかしちゃいけない。好かれて嬉しいだけ、……だと思うし。
悶々と考えながら、テニスコートを見ていると小春くんと目が合った。思わず手を振れば、振り返してくれて、少しだけ緊張がほぐれた気がした。
ここへ来る前、教室で時間を潰していたおかげか、来てそこそこに部活が終わったみたいで、勢いよく一年生らしき部員の子が駆け抜けていった。
すごい。あの子、すごい動き回ってたのにまだあんなに元気有り余ってる。ヒョウ柄ランニングだし、なんか動物の子みたいでちょっと可愛い。
「ほな、なまえちゃんお先に。気ぃつけて帰りや」
『え、あ…小春くん。ありがとう、ばいばい』
「また明日ね」
『うん』
「ま、待たせたな」
『あ、一氏くん…』
「ほな帰るで」
『えっ、あっ、』
待って、と口から発するのよりも早く右腕を掴まれて、一氏くんはそのまま校門に向かって歩き出した。
さすがは男の子、とでも言えばいいのか、女の子の友達に掴まれてたり引っ張られるよりも、握力も引力も倍以上ある気がする。要するにちょっと痛い。
それなのに、この手を振り払えないでいるのは、少しだけ見える一氏くんの横顔が紅いからなのだと思う。この力加減なのも、照れ隠しなのかなと思えば、昨日までちょっと怖かった一氏くんが可愛く見えてくる。なんだか不思議な感じ。
『一氏くん』
「なんや?」
『もうちょっとだけゆっくり歩いてくれたら嬉しいんやけど』
「あ、おん……速すぎたか、すまん…」
『あ、いや、こっちこそ、ごめん』
「いや、そないなこと…」
私は元々弱気な方だし、友達にもよくどもりすぎ!とか怒られることもあるけど、一氏くんがこんなにおろおろしてるのは初めて見る気がする。慌てると意外といつもこんな感じなのかな? 本当に今まではあんまり接したことがないから分からないんだけど。
そっと、掴んでいた腕を離してくれた一氏くんの隣に並んで、表情を見ると一瞬目が合ったのに、ばつが悪そうにすぐ視線を外して歩き出した。それに合わせて慌てて私も歩きだす。
そのまま暫くお互い無言のままだったけど、嫌な気まずさとかは、ほとんどなくて、まるで友達と帰ってるような感じがした。
『あれ? 一氏くんって家こっちなの?』
「ん、おん。こっちでええんや」
『へぇ……知らなかった〜』
「今まで俺に興味なかったんやろ?」
『あ、いや……それは……』
「知っとんねん。みょうじが俺のことなんか興味なかったことくらい。俺を誰やと思ってねん!」
『一氏ユウジくん……』
「その受け答えおもろないで」
『でも私、関西人やないし!』
「関西弁みたいなん使うとるやんか」
『いや、地元の方言残ってるだけねん、これ…』
「へぇ……そうなんか。それは俺も知らんかったわ」
『うん』
「……」
『……』
さっきとは違う沈黙が流れた。なんというか、緊張感があるような、今から告白でもされそうな雰囲気。ドキドキしてきたけど、告白は昨日されたはずやし、どっちかと言えば今日言わんなんのは私。
言うなら今……、しかないよね?
『あの、一氏くん……』
「おん…」
『私、昨日一氏くんに好きって言われて嬉しかった』
「……そ、それで?」
『……それでね、一氏くんのこと、まだ全然知らなくて……』
「せやんな、」
『だから、その、まだ付き合うとか、そういうのって、考えられないというか……でも本当に一氏くんの気持ちは嬉しいし、昨日から喋ってみて思ってたより話しやすかったし、だから、その、なんていうか……』
「俺とは付き合えん、ってことやろ?」
『え、いや……その……』
「肯定せぇへんと、いい意味にとるやんか」
どうしたらいいか分からなくて、口ごもってしまう。歩くスピードも落ちて、早く歩けない。
なんて言ったら1番良いのか、一氏くんを傷付けないのか。傷付けない方法なんてないかもしれないのに、私はとても卑怯。一氏くんに先に言わせるなんて。
『昨日みたいに、好きか嫌いか?って聞かれたら、それは好きって言う。でもlikeかloveかって聞かれたら、きっとlikeなの。だから……ごめん』
「そ、か……」
絞り出すように、頷いた一氏くんの顔が少しだけ歪んだ。ズキンと、一氏くんじゃなくて、私の胸が痛む。
『あの、だから……、まずは、仲良くなってほしい、って思ってて』
「は……?」
『駄目やったらいいげん……変なこと言ってごめん』
「あかん!」
『え?』
「あ、あかんくないから、あかん!」
『へ? え?』
「せやから! 俺も仲良うなりたい……」
どんどん声が小さくなって、最後の方は聞き取りにくかった。だけど、一氏くんも仲良くなりたい、って言ってくれた?
『それって、良いよってこと?』
「せやからそうやって!言うとるやろ!!ちゃんと聞け!アホ!」
『……あほ…』
「あ、いや!そうやなくて……!」
『一氏くんらしくなったね』
「は?」
『あんまりおろおろしてるのは、いつもの一氏くんぽくないから、さ』
「あ、おん……せやな!」
『じゃあ改めまして…』
「よろしくな」
『ねえねえ、ところで』
「ん?」
『なんで一氏くんは私のこと興味持ったの?』
「は? なんで、んな事教えたらなあかんのや!? 調子乗るな!」
『教えて貰えないんや……』
「当たり前やろ!アホか!」
とりあえず、最初の課題はクリアしたことに、ちょっとだけどころか、すっごくホッとしたのは、一氏くんには内緒にしとこう。
本当に一氏くんを好きになるのか、なれるのか、それはまだ分からないけど、一氏くんが友達になったことで私の世界は変わる気がする。
あ、明日小春くんにもお礼言わなきゃ。
小春くんは、どんな顔するかなぁ。