今日何度目かも分からない溜息が零れる。数日前にうーちゃんに言われた言葉が、頭をぐるぐる旋回しながら回っていて頭が痛い。
ユウジくんの気持ち、か。あんまり余裕なくて全然考えてなかったな。それに、そういう対象として、ちゃんと意識してなかったかも。いや、でも、好きって言われてびっくりはしたけど、嫌じゃなかったし、友達になれて嬉しかった。最近は仲良くできるのも嬉しいし、距離が近いとドキドキもする。
でも、じゃあこれが恋なのか?と問われると……、
『もう、わっかんない……』
「なにを悩んではるんや、みょうじはん」
『あれ、…石田くんなんで隣におるがん?』
「これは、HRで席替えしたのが記憶にないほど重症と捉えてええんやろうか…」
呆れたように、でも優しく笑った石田くんの顔を見たら、なんだか涙腺が緩みそうになった。ユウジくんの告白の時も話聞いてくれたし、口軽くなくて茶化さんと親身になってくれて、強面だけどカッコよくて頼りにもなって、相談相手には抜群で。東京出身でも四天宝寺に通うだけあって、笑いもいける。
『ね、石田くん……』
「なんや?」
『お願いがあるんだけど……いい?』
「内容によるが、無茶なことやなければ協力くらいさせてもらおう。一氏やろ?」
『え、?!あ、いや……』
「言うてみい」
『あのね、……ちょっと頭撫でて?』
「……それは、意図が全く見えへんのやが」
『えっと……ドキドキするかな…、なんて』
「……今回だけやで」
今日2度目の呆れ顔をした石田くんの腕がゆっくり伸びてきた。ずしりと、頭に大きな手の重みがかかる。じんわり温かさが伝わってきて、なんだかほっとするような安心感がある。あぁ、でも、ちょっとドキドキはするけど、なんか違う……かな。ユウジくんのドキドキはもっと縛られるような、ギュッとしたような感じに近いというか。
あぁでもない、こうでもないと1人唸ってると、石田くんが私の頭上から戻した腕で頬杖を突きながら目を細めて口を開いた。
「……そういうことやないか?」
『そういう、こと?』
「少なくとも、わてとの違い、あったんやろ」
『……うん、』
「せやから、そういうことや。時には難しく考えんと、正直に、な」
自分だけ、最初から知ってたよって顔するのズルい。あぁ、でも、うーちゃんが言ってた意味分かった気がする。小難しく考えすぎていたのかもしれない。
『私、ユウジくんのこと少なくとも意識してるってことや、』
「ほう」
『あ、いや、まだ確信出来てるわけじゃなくて、なんか上手く言えないけど、でも簡単に言うとやっぱり好きなんかもしれんって思って。……なんて、まだユウジくんに伝えれるレベルじゃないんやけど』
「まぁ、しっかり答え出せるように、よう考えればええんとちゃうか」
『うん、そうだね。石田くんに相談して良かった。ありがと!』
「で、あんたらなにやってんの?」
『え? うーちゃん?……って?!ゆ、ゆ、ユウジく…ん』
急に斜め前から降った声に顔をあげると同時に喉が詰まった。なんで、という声にならない吐息しか出ない。声をかけてきたうーちゃんの後ろから、ユウジくんの顔が覗いていた。今さっきの見られた…?と思うと、じわじわと恥ずかしさと後ろめたさで顔から首、首から上半身へと体温が上昇していく。なんて、タイミングで現れちゃうわけ……。
「ったく、何やってんのや。一氏もなんか言うたら?」
「……う、浮気か、死なすど?!」
いつもの覇気がない声色で、いつも小春ちゃんに放つ台詞を発したユウジくんの顔を恐る恐る覗くと、なんとも言えない苦虫を噛み潰したような表情。そんな顔、初めて見るもんだからどんな反応をしていいのか分からなくて、何か言いたいのに何も出てこない。押し黙るユウジくんに、もじもじするしか出来なくて沈黙が流れた。数秒だけど、その居たたまれなさに意を決して視線を上げた瞬間にバチッ!と目が合って、思わず逸らしてしまった。
「な、なんやねん!銀とこんなとこでイチャつきよって!いてこますぞ!」
『ちち、違うよ!そんなじゃなくて、ユウジくんの、……なんでもない!』
「は?なんでもないって、なんやねん!なんでもあるやろが!」
『ユウジくんには、か、関係ないげんもん!』
強い口調に釣られて、言ってしまってから後悔した。関係ないなんて思ってもないことを口走ったことに自分でも驚くけれど、それ以上にユウジくんは傷付きましたって顔をした。そんなつもりで言ったわけじゃないの、そう頭の中では言えるのに、ユウジくんにさっきまでのやり取りは知られたくなくて、言えない。
それでも、何か、何か、言わなきゃ……、と苦し紛れに視線で石田くんに助けを求めると、それに気付いたユウジくんは、もうええわ、と一言呟いて踵を返して教室から出ていってしまった。
嘘、……どうしよう。