「ナマエ準備出来た?」
「……なんとか」
「じゃ、行くよ」
キルア達を見送ってから急に、明日出発するから、とイルミが言い出したものだから最初は冗談かと思ったけれど、冗談なんてイルミが言うはずもなくて、慌てて準備をさせられた。おかげで寝不足。
皆に伝えるのはイルミがしてくれたけれど、キルアがまた出てってすぐだったものだから、カルトを宥めるのが大変だった。自分も着いて行くって言い出して、結局昨日はカルトが寝付くまで一緒に寝てあげるはめになった。甘えてくれるのは可愛いから全然良いんだけどね、昨日は準備もあったから大変だった……。
「ナマエちゃん、」
「どうしたのカルト?」
「たまに帰ってきてね?」
「もちろん。この家を出てく訳じゃないんだからね?」
「うん」
カルトのせいで寝不足なんだけど、そんなことどうでも良くなるくらいには可愛い。ぎゅっと小さな手で自分の袖の裾を握る姿も可愛くて、カルトを屈んで抱きしめる。
「ナマエ行くよ」
「うん、」
「カルト、俺達がいなくても訓練怠らないようにね」
「わかってるよ、兄様」
「じゃあ」
「ばいばいカルト」
「いってらっしゃい!」
歩き出すとイルミの手が伸びてきて、私の荷物を黙って持ってくれる。なんだかその行為が普通のカップルみたいでちょっと照れる。荷物の大きさが普通じゃないんだけど。
「何赤くなってんの?」
「んー、今日のイルミは優しいなぁって」
「いつでも俺は優しいんだけど、喧嘩売ってる?買うけど」
「う、売ってません!」
「あっそ」
2人分の荷物を持って走ってるのに、この状態でも喧嘩売ったって負けるんだろうし。そう思うと私って哀しくなるくらい弱いよなぁ。念だって基礎は使えるけど、へなちょこ過ぎて逆に恥ずかしいくらいだもん。
「ナマエ、早く乗って」
「あ、ごめん」
気付けば飛行船の乗り場まで着いていて、荷物も乗せ終わったイルミに急かされる。
「本当鈍臭いね。闘技場で鍛え直さないと」
「……頑張ります」
「まぁ、とりあえず着くまではゆっくりしてて良いよ。あと200階までは念無しで行けるから」
「え!?じゃあ念の訓練は無し?」
「まず念なしで200階くらい行けなかったら話にならない」
なんだか先が思いやれる、ね。やっぱり心配になってきちゃった……大丈夫かな。
「そもそもナマエって、具体的に念能力にするかとか未だに決めてないでしょ?」
「あ、うん。まだ基本から脱していないとゆうのが正しいというか……」
「念も今回の旅の課題だから忘れないでよ」
「そうですよね、はい……って、え?!」
備え付けの簡易キッチンで入れたコーヒーのマグカップを持って、しれっと言うイルミに焦る。いやいや、聞いてない聞いてない!闘技場しか聞いてない!
念については、コンプレックス持ってるんだけど……!今の今までそれについて触れなかったのは、イルミなりの優しさなのかなって思ってたよ!
「そんなの、心の準備とか…出来てない」
「心の準備?なにそれ?要るの?」
「要るに決まってるでしょ!」
いるよいるよ!イルミの馬鹿ー!どうしようかと思ってテンパってると目の前に、さっきのイルミのとは違うマグカップを渡された。
「イルミ?」
「ココア。とりあえずそれ飲んで落ち着きなよ」
「イルミ優しい…!」
「だからそれ飲んでる間に準備しといてね」
「準備?」
「その、心の準備ってやつ」
「……え?」
もっと強く俺好みにしないとね、
……もうお家に帰りたい
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