……ドキドキしてきた!でも初めが肝心だし、初戦頑張る!

「来るとこ間違ったんじゃねぇのか?お嬢ちゃんよ?」
「まぁ、私も来たくて来た訳ではないんですけどねぇ」

番号を呼ばれていざ壇上に上がると、反対側からいかつい……いや中年太りしたおじさんが上がってきた。人を見た目で判断しちゃいけないのは、口を酸っぱくして言われて育ってきたし、イルミにいたっては未だに言うけれど、このおじさんは弱そうでちょっと安心した。
初戦でちょっと緊張してるわけだし、ウォーミングアップにはちょうど良いかも!
だってどうみても筋肉じゃなくて、脂肪が多いでしょこの人。

大丈夫、と気持ちを落ち着かせていると開始の合図を聞いて、おじさんが飛びかかってきた。何か考えるより先に反射的に身体が動いておじさんの巨漢を避ける。すると標的のいなくなったおじさんの身体は、どしんと大きな音を立ててコンクリートに倒れた。勢いがあっただけにすごく痛そう。

「てめぇ…!」
「ひぃ…!ごめんなさいごめんなさい!」

ゆっくり起き上がったおじさんがドスの利いた声で睨んでくるもんだから、思わず平謝りしてしまった。でも、こういうところだし!自分で転んだんじゃんか…!

「くそっ、舐めてかかったら……次は本気で行くぜ」

わたしだって!わたしだって!やるときゃやるんだぞ。目を合わせると怯んじゃうから、顔を見ないようにして、気持ちを落ち着けて精神統一する。
大丈夫、こんな人、ヒソカさんやハンター試験で出会った人に比べたらちょろいもんだ、いける…!
おじさんが近付いてくる気配を感じて、今度は真っ直ぐ狙いを定める。そして私も勢いよく地面を蹴る。

「………」
「あ?……うっ」
「やった!」

どすん、と音を立てておじさんが倒れる。さっきとは違って、気を失っているから盛大に擦りむいてるし絶対打ち身だよ、これ。
私はというと、なんとか成功したものの手の打ち所がズレたみたいで、じんじんしてて少し痛い。
おじさんがデブだったから痛みが軽減された気がするけど、そもそもデブだから見極めにくかった訳だし、おじさんが痩せてたらもっと上手に出来たかもしれない。こんな出来だとイルミに何か言われそうだなぁ……。

そうこうしてる内に審判の人がカウントしてくれてて、無事私は20階に上がれるらしい。

「イルミ…!」
「今度はよく分かったね」

見てるであろうイルミの所へ戻ろうと思って、観客席に上がろうと廊下へ出るとすぐに背後にイルミの気配がした。壇上から降りた瞬間から注意しといて良かったー!

「次30階行って良いって!」
「たった30階?……まぁ、あのレベルならしょうがないか」
「勝ったのに……」

一気に30階になったんだから、褒めてくれても良いのに。確かに内容はちょっとお粗末だったかもしれないけどさ!

「さっきキルアは一気に180階まで上がろうとしてたよ」
「180階!?…え?キルア!?」

え!え!これって180階にびっくりすれば良いの?それともキルアがいることにびっくりすれば良いの?どっち?!
いや、でも昔キルアは200階まで行ったんだし、当たり前か。じゃあ、キルアがいることにびっくりして良いんだよね?

「さっきナマエが呼ばれる前に試合してたよ」
「……キルアもいるんだ」
「キルアは手刀一発で無駄もなかったよ」
「……耳が痛い限りでございます」

キルアの試合は見てないけれど、想像するだけで分かる。キルアは私みたいにビビりじゃないし手刀も上手だもんなぁ。
でも私だって、落ち着いてやれば筋は悪くないってゼノじぃに言われてるんだから!

「でもキルアがいるってことは会えるかな?」
「ナマエが頑張ればね」
「そっか」
「さ、100階までは個室当たらないんだからホテル行くよ」
「100階以上なら個室貰えるってこと?」
「そうだよ。相部屋なんて嫌だから、少なくとも3日以内には100階行ってよね」
「もっとそれ早く言ってよー!」

個室貰えるなら…!頑張らなきゃ!だって…、だって……!
この旅行の費用、私の貯金から出してるんだもん!私はあんまりお仕事頼まれないからたくさん貯金ないのに!

「だってこの旅行ナマエのためだし?当たり前でしょ」

意外とシビアな婚約者


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