カタカタカタカタ……って。その音どうにかならないのかな。

「中々にさ」
「うん」
「怖いというか、不気味だね」

変装するのは良いけれど、この効果音はなんなの?

「別に普通だよ」
「ふ、普通?どこが……?」
「それに試験中は基本は別行動だし、気にする事もないでしょ」
「そうだけど……」
「着いたよ」
「え、お昼ご飯先に食べるの?」

着いたと言われたのはどう見ても定食屋さん。食事に興味がないイルミが自ら食事しようなんて珍しい!
いつもは、ゴトーさんとか私が言わなきゃ食べなかったりするのに!

「入るよ」
「あ、待って…!」

さっさと入って行くイルミ。……それにしても、イルミにしては珍しい雰囲気のお店だよね。実はこういう大衆食堂みたいなのは好きとか?

「いらっしゃい!ご注文は?」
「ステーキ定食」
「え?あたしまだ決まってな…んー!」

何故かイルミに口を塞がる。え、なんで勝手に決めちゃうの!

「……焼き方は?」
「弱火でじっくり」
「お客さん奥の部屋へどうぞー」
「いや、ステーキでも良いけど、そこまでしてステーキ食べたいなんてイルミじゃないみたい……」
「別に食べたい訳じゃなくて、これ試験だから」
「え!そうなの?!」

びっくりしてると、手早くステーキ定食が出てくる。試験だけど、ちゃんとステーキは出てくるんだ。
せっかく出てきたんだし、腹ごしらえに食べとこうと思って肉を切り分けてみる。

−ウィィィン

「ん?……なんか下がってる?」
「試験会場に向かってるんだよ」
「ふー…ん……あ!要するにステーキ定食弱火でじっくりは合言葉な訳ね!」
「そういう事」

そっかそっか、そういうことか。
やっぱりイルミが食に目覚めた訳ではないのね。それはそれで残念。

「……イルミは食べないの?」
「食べなくても平気だし」
「平気じゃなくて、ご飯はしっかり食べなさいっていつも言ってるでしょ!」
「そうだっけ?」
「ふーん、そういうこと言うんだ」
「……食べれば良いんでしょ。ナマエは怒ると不機嫌になるから、困るよね」
「困ったような顔には到底見えないけどね」
「それ嫌味?」
「ご飯ちゃんと食べないイルミが悪い!」
「ま、ナマエだから可愛いって許せるんだけど」
「……え」

カァァ、と言う効果音と共に頬が染まる。なんてこの人は不意打ちが得意なんだろう。

−チーンッ

「……着いたみたいだね」
「うん、お腹も良い感じに膨れたし頑張るぞ!」
「そう、じゃあ頑張ってね」
「目指すは合格だからね…!」

拳をグーにして力む。……ドキドキしてきた。やっぱり、すごい人ばっかなのかなあ。

「力み過ぎ」

ポンっ、とそっと置かれた手に頭から熱を感じて。言わないけれど、心配してくれてるのかなぁって思うと嬉しくなる。

「じゃ、また後でね」
「うん!」

そして、エレベーターが開き切った所で置かれた手と一緒にイルミは離れていった。
……キルアもいることだし大人しくしなきゃ。
ナンバープレートをもらってから、端っこに行って睡眠体勢を取る。このまま時間まで少し寝ようっと。

「君、新入りだね?」

寝付こうとした瞬間に、タイミング悪く変なおじさんに話し掛けられる。

「そう、だけど何?用がないなら寝たいんですけど」

私は寝起きが悪くて、寝付きが良い。よって、睡眠妨害をされるのは大嫌いで、機嫌が悪くなる。

「え、いや用って言うか……お近づきの印にジュースでも…と思ってね」

無意識に殺気を出してしまって、そのおじさんが怯む。やばい、やりすぎたかもしれない。

「……なら喉が渇いてるし貰おうかな?」
「そ、そうかい?じゃあ、あげるよ」

途端に笑顔になったおじさんが、ちょっと気持ち悪かったけど気にしないでおこう。

「ありがとう!お肉食べた後だからか喉ちょっと渇いてたんだよね!」

グビッ、っと缶ジュースに口を付ける。

「美味し、……くない!?」

うぁぁあぁ、これ変な味する。う…ん、これは単なる下剤かな。多分。

「ちょっとおじさん!これ下剤入りじゃないの?下痢したらどうすんのよー」
「えっ…!?」
「私、味見分けるのは得意だから分かるんだよね、毒の味とか」
「……そんな」
「まぁ、私には効かないけど普通そんな卑怯な手使ったら駄目でしょ」
「え、あぁ、そうだな!悪かった……!」

そう言ってすごい勢いでおじさんは踵を返して逃げて行った。
ん……こんな小細工する人達もいるのかなぁ。私、ゾル家に育って良かった。
じゃなかったら、こんな所で下痢して恥かいてお嫁に行けなくなるトコだったし!
……あ、でもまあ、イルミがいるから貰い手には困らないか。
いやでもでも、きっとキルアからはずっと罵られる事になるんだから!それは嫌!
まだ、キルアよりは優位でいたいんだから!

「君、すごく美味しそうだね◆」
「え…?」

今度は何!?美味しそうって何が?!
ハンター試験って、やっぱり色んな意味で危ないのかも知れない。
まだ始まってすらいないのに、イルミと別れて10分なのに、もうくじけてしまいそう!

「ん〜、つれない感じも僕好み★いいね、君。とっても欲しい◆」
「え…あの、その……どうも?」

これ……褒められてるんだよ、ね?

−シュンッ

「……おや◆」
「きゃ…!」

えーと。
イルミさん……?貴方の姿見えないけど、明らかこれは貴方が飛ばした物ですよね。

「……あ、血!血が出てますよ!」

ポケットからハンカチを出して怪しい彼の頬を軽く拭う。んー?このペイントは取れないのかな?

「ありがと★君は優しいんだね、もっと美味しそうだ◆」

いやだから、その美味しそうって何なの。というかあまり関わりたくはないけど、イルミの仕業だと思うから、見過ごすわけにもいかないだけなんですけどね。

「僕はヒソカ。君は?」
「……ナマエ」
「イルミとどういう関係なんだい◆」
「イルミとは、婚や……え?!イルミと知り合いなの?」

あまりに自然に聞くから、普通に答えてしまいそうだった。こんな変な人とイルミは知り合いなの?
……でもまぁ、イルミって友達とか紹介してくれなくて、いるのかも危しかったから居ただけ良かった、かな?

「イルミとは仕事でね◆さっきのはイルミだろ?イルミが他人に興味を示してるのなんて初めて見たよ★」
「そう?」

♪〜♪〜

「……おや◆」

怪しいその人はポケットから携帯を取り出して、メールか何かを見ると、楽しそうににんまりと笑った。

「……あの」
「ん〜★そろそろイルミが怒っちゃうみたいだから僕は退散するよ◆また後でね」
「はぁ……」
「僕がいなくても寂しがっちゃ駄目だよ★」

なんで私が!って突っ込もうとした瞬間……、ふわっと頬に違和感を感じた。

「い、い、…い……今……!」
「クックック◆ごちそうさま★」

……頬にキスされた模様です。

イ、イルミに殺される…!
浮気じゃないよ!イルミの友達でしょ!不可抗力でしょ!
えっと、あの名前知らないや、あの人の性!だから私は無実だよ!被害者!


だから殺気を送らないで!
すごく苛立ってるから無理。


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