「ほら、入らないの?」

無表情のまま不思議そうに首をかしげるイルミだけど、誰かこのお坊ちゃんをどうにかしてほしい。
そりゃあね、ゾル家で育った正真正銘お金持ちのお坊ちゃんですよ?イルミは。でも、常識とか遠慮とかは少し覚えた方が良いと思うの。

わたしの……、貯金なのに、私のお金なのに、なんでなんで……

「なんでスイートルームなの〜?!」
「なんでって……むしろわざわざ普通のツインダブルが良かった訳?」
「そういうことじゃなくて、……やっぱりもう良いや。私明日から頑張ります」
「?」

もう大人しく諦めよう。これ以上言っても何も変わらないと思うし、イルミの言う通りさっさと個室貰えるように頑張る方が賢い。これ以上私の貯金を減らさせはしない…!
入口で意気込んでいる間に、イルミは広いキングサイズのベッドでくつろいで、置いてあったウエルカムフルーツに手を出していた。

「ほら、ナマエの好きな桃あるよ」
「え!?」

桃だって……?桃!桃食べたい!
急いでイルミとフルーツのあるサイドテーブルまで走ると、はい、と皮付きのまるごとの桃を渡された。
……あ、剥かないといけないのね。
しょうがなく、ベッド脇のイルミの横に腰掛けて皮を剥く。半分くらい身が見えたら、そのままかぶりつく。

「美味し〜い!」

やっぱり桃は美味しい。至福の一息。
そう思ってもう一口頬張ろうとしたら、桃は私の腕と共に引っ張られて口に入ることはなかった。

「なにする、の?」
「甘いのかなって思って」
「甘いよ!そりゃ甘いよ!」
「ふうん。まぁいいや」
「え?ちょっと!?」

桃を食べたいのか、イルミは桃に顔を近付けたのに途中で動きを止めた。それから今度は私の方に顔を近付けてきた。

「ん、」

ちゅ、とリップ音を立てて唇が合わさって、そのまま唇を舐められた。

「うん、やっぱり甘いね」
「なっ…!」

自分で食べれば良いのに、私の唇舐めて味見するなんて!は、は、恥ずかしい!何か文句を言いたいのにびっくりし過ぎて言葉が出てこない。口だけは、ぱくぱくと動いてくれるのに、あー、もう!

「あ…!」

とうとう手に持っていた桃すら奪われて、そのまま両手の自由もイルミによって奪われた。
啄むように、何度も何度も角度を変えてキスを落とされる。一瞬だけ唇が解放される瞬間に、空気を吸うのだけで精一杯で、抵抗する力も無ければ思考も回らない。

「今日はナマエにしたら頑張った方だから、いつもより愛してあげる」

首をきつく吸われる。これキスマーク付いちゃったってゆうか、内出血の域だよ絶対。でも、まぁいいかなんて安易に思うくらいにはイルミが好きで、イルミに甘さに浸ることも好き。

桃よりも甘い甘いキス
つくづくイルミは私に甘いし、私もイルミに甘いね。


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